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新造船計画に遅れも…日立造子会社のデータ改ざん、造船業界への影響度

新造船計画に遅れも…日立造子会社のデータ改ざん、造船業界への影響度

新燃料対応の設備投資を計画するなど事業強化を進めている日立造船マリンエンジン

日立造船の子会社2社による船舶用エンジンの燃料消費率のデータ改ざん問題をめぐり、造船業界が影響を注視している。バラ積み運搬船やコンテナ船などにエンジンを供給しており、出荷停止などが長引けば新造船の建造計画に遅れが生じる可能性がある。外航船を手がける国内造船各社は円安の追い風などを受けて3年超の手持ち工事量を抱えており、今回の問題が活況に水を差しかねない。(大阪・池知恵、鈴木真央)

データの不適切な書き換えを行ったのは日立造船マリンエンジン(熊本県長洲町)とアイメックス(広島県尾道市)で、改ざんは1999年以降に両社が出荷した計1364台。日立造船は特別調査委員会を17日に設置した。事実関係や原因究明を徹底するとともに再発防止に取り組む。

ただ造船業界の一部では早くも「三井E&Sに生産の余地はないのか」など、エンジンの転注を探る動きがある。三井E&Sは大型舶用エンジンで国内シェア5割以上を握る首位。2位の日立造船と同様、独MANエナジーソリューションズのライセンスを受けてエンジンを製造している。三井E&Sは「弊社では計測の不正行為はなく、現在進行中の工事のエンジン部分で不適切行為はない。NOx(窒素酸化物)など環境指標にも支障はない」としている。

国土交通省海事局は5日に「NOx放射量確認試験における不正行為の有無等に係る実態調査について」とした文書を船舶用エンジン関連メーカーに送り、9月末をめどに文書で報告するよう要請した。調査期間は少なくとも過去10年分以上とし、実施体制と調査方法、内部監査部署などの確認を受けるなど第三者性を担保した調査にすることとした。調査結果で不適切事案があった場合、内容の詳細に加え、エネルギー効率設計指標(EEDI規制)と就航船のエネルギー効率指標(EEXI規制)に影響するかの可能性なども求めた。

今後の焦点は造船の工程遅れに波及するかだ。造船業界は仮にデータ改ざんに起因したペナルティーが発生した場合、日立造船グループに求償することになりそうだ。

外航船の主機は、例えば超大型タンカー(VLCC)向けになるとエンジン単体で重さ1000トン近くに達するなど巨大な構造物。相応のクレーン能力が必要になる。造船所のドック内工程の早い段階で搭載されるため、エンジン納入の遅れは一度確定した線表に影響を及ぼす。新造船の受注環境が良好なだけに、造船所は比較的タイトな線表を組んでおり、状況を注視せざるを得ない。

しかも足元では、国際海運の脱炭素に対応してメタノールや液化天然ガス(LNG)など新燃料に対応した新造船の受注が相次いでおり、ただでさえこれらの船は艤装(ぎそう)が多く、従来に比べて工程が延びる。

日立造船の舶用エンジン事業の23年度売上高は242億円で、全社の約4%にとどまる。2期連続で営業赤字に陥るなど収益力に課題を残し、23年には今治造船(愛媛県今治市)から35%出資を受ける形で日立造船マリンエンジンを設立。国内造船最大手との連携強化による収益力向上を図っている最中だ。

船舶用エンジンは経済安全保障推進法に基づく政令で特定重要物資に指定されており、できる限り早期の全容解明、問題解決が求められる。

日刊工業新聞 2024年7月18日

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