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半導体製造後工程、露光装置の知見生かすキヤノンの戦略

半導体製造後工程、露光装置の知見生かすキヤノンの戦略

キヤノンは前工程向けの技術を応用し、アドバンスドパッケージ市場を深耕する

前工程向けの半導体製造装置メーカー各社が後工程向けの装置開発に乗り出している。生成人工知能(AI)の沸騰を背景に、これまでより高度な後工程「アドバンスドパッケージング」の需要が高まっているためだ。前工程で培った技術を武器に後工程への参入を加速する各社の戦略を追った。初回はキヤノン。(3回連載)

キヤノンが展開するのが、後工程で使うi線露光装置だ。前工程向けの露光装置の知見を生かし、2011年に初号機を発売した。三浦聖也執行役員は「これまではスマートフォンなどのモバイル向け需要が主で、年間15―20台程度売れていたが、(生成AIの普及により)24年は23年と比べ引き合いが2・5―3倍に増えた」と話す。

特に米エヌビディアが強みを持つ画像処理半導体(GPU)とDRAMを積層した広帯域メモリー(HBM)を使った高性能デバイス向けが好調だという。このデバイスは、複数のGPUとHBMを密接に接続する。この際、露光装置を、DRAM同士を接続するバンプの形成だったり、HBMとGPUを接続する再配線層を形成したりするのに使う。三浦執行役員は「前工程の露光装置は解像力が0・3マイクロメートル(マイクロは100万分の1)必要だが、後工程では1マイクロメートルあれば足りる。前工程のレンズ技術などを生かすことで実現した」と説明する。

今後はアドバンスドパッケージングの技術トレンドを狙う。大きく三つある。一つ目がパッケージサイズの大型化だ。今後、高性能なコンピューターはプロセッサーとメモリーがより多く搭載される。それに合わせ、パッケージサイズも大型化すると想定される。キヤノンの露光装置は、4回の露光をつなげることで100ミリ×100ミリメートルの大型パッケージに対応する。

二つ目がシリコンブリッジだ。シリコンブリッジはコストが高いが微細配線ができるシリコンインターポーザーと、コストは安いが微細配線が難しいパネルインターポーザーを組み合わせたもの。微細な配線が必要なチップ間の配線にはシリコンを、外部との配線にはパネルを使い、性能とコストを両立する。

シリコンブリッジをボンディングする際、位置ずれが起きる課題があった。キヤノンはチップごとに位置合わせを行い、露光して課題を解決する。三浦執行役員は「先端後工程は位置合わせの精度が必要になる」として、ICチップをパッケージ基板に搭載するダイボンダーと露光のデータを使い、生産性を向上させるシステムを構築する考えだ。

最後がバンプを使わず、チップ同士を直接接続するハイブリッドボンディング。具体的な製品は未定とするが「キヤノンの露光や位置合わせ、(キヤノンマシナリーなどの)グループ会社の知見を生かすことで高精細な配線需要に応えたい」(三浦執行役員)としている。アドバンスドパッケージングは需要増が見込まれることから、キヤノンは知見を生かし、浸透を狙う。


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日刊工業新聞 2024年7月17日

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