JX金属が鉱硫船に搭載、風力推進補助装置「ローターセイル」の効果
JX金属の持分法適用会社パンパシフィック・カッパー(PPC、東京都港区、村尾洋介社長)が、海上輸送における二酸化炭素(CO2)排出量削減への取り組みを強化している。JX金属グループのみが運航する銅精鉱・硫酸兼用の輸送船「鉱硫船」に風力推進補助装置「ローターセイル」を搭載し、航海を始めた。約5―6%の燃料削減効果を見込み、鉱硫船のさらなる輸送効率向上につなげる。(岡紗由美)
鉱硫船「KORYU号」は、センコーグループの日本マリンが運航する。現在はJX金属製錬(東京都港区)の佐賀関製錬所(大分市)から硫酸を積載し航行中で、8月にチリに到着する予定だ。PPCの植村寛周執行役員は「このプロジェクトに限らず、脱炭素社会の実現に向けて貢献したい」と、さらなる試みも視野に入れる。
KORYU号のローターセイルは高さ約35メートル。PPCと豪資源大手BHP、フィンランドのローターセイルメーカーであるノースパワーが共同で設置した。載貨重量5万トン級のバラ積み貨物運搬船としては、初の搭載事例となる。
円筒型の帆であるローターセイルは船舶の風力アシスト機構の一つだ。回転しながら進む物体に風が当たることによって揚力が発生する現象「マグヌス効果」を利用し、推進力を得る仕組みだ。
KORYU号のローターセイルは、元は2番クレーンがあった場所に設置された。投資額は数億円。起倒式を採用したことで、航海中の視認性に問題はないと見ている。日本マリンの西川泰紀船舶部海工務担当部長は「船のバランスなどを計算してあるが、既存船への設置のため実際のCO2削減効果や振動などの影響は運航しながら検証していく」と説明する。
今回搭載されたノースパワー製のローターセイルは、従来の帆に比べ約10倍の推進効率を持つ。自動制御システムを備え、一度稼働させると操作を必要としないことが特徴だ。風の状態が良好であれば、速度と予定された航海時間を維持しながら、主機関の回転数を落とすことで燃料使用量を削減する。ノースパワーのアンティ・アアプロ氏は「ローターセイルを実用化してから10年に及ぶ実績と経験が強みだ」と自信を示す。
そもそも、鉱硫船はJX金属グループ独自の輸送船だ。年間約15万トンの銅精鉱と約10万トンの硫酸を、日本―チリ間で往復輸送する。通常は固体の銅精鉱と液体である硫酸を同じ船倉に積むことはできないため、2隻の船が必要になる。これに対し鉱硫船は銅精鉱の船倉を中央に、硫酸タンクを外側に配置するなどの工夫が施されており、この問題を解決している。
往復での輸送を可能にしたことで空荷を防ぎ、荷物を運ばない航海のロスを大きく低減した。今後は鉱硫船自体が持つ高い輸送効率とローターセイルの効果を掛け合わせることで、燃費効率やCO2排出量の削減効果を最大限に高める構えだ。