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注目度高まる「木材活用・木造ビル」、竹中・大林組・大成建設…取り組み加速

注目度高まる「木材活用・木造ビル」、竹中・大林組・大成建設…取り組み加速

「燃エンウッド」を使った木造オフィスビル(完成予想図)

耐火・耐震・高強度にCLT、脱炭素に寄与

非住宅分野で建物の木造・木質化が進んでいる。脱炭素化という大きなうねりを受け、木材に対する注目度が一段と高まっていることが背景にある。森林資源の有効活用や林業振興への寄与といった効果も期待され、普及促進に向けた環境も整いつつある。今後の需要拡大を見据えて、建設や不動産各社は内装や外装への木材の活用や木造ビルの建設などさまざまな取り組みを加速している。(編集委員・古谷一樹)

法整備後押し、国産材拡大

着工した「中高層木造建築物」の床面積

建設業界では約20年前から建物の木造・木質化に取り組んできた。その動きは近年さらに加速し、各社が耐火性能や耐震性などを高めた技術をこぞって開発。これらの技術を使った中高層ビルの建設につながっている。

きっかけとなったのは政府が2050年までの目標として打ち出したカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)宣言だ。さらにサーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(自然再生)といった考えの浸透も木材の活用の大きな原動力になっている。

木材活用のメリットの一つが脱炭素効果。長期にわたり二酸化炭素(CO2)の固定につながるほか、製造や加工、建設の各段階で必要となるエネルギーが鉄骨や鉄筋コンクリート(RC)より少なく、CO2排出量の大幅な削減に役立つ。

法整備も後押しになっている。国産材の需要拡大を目的として、10年に公共建築物の木造化などを進める「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立。21年には、民間建築物の木造化などを促す「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として改正、施行された。

技術面の革新も進んでいる。特に注目されているのが直交集成板「CLT」。ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質パネル建材で、強度や耐火性、耐震性などに優れる。

建物の木造・木質化は、国産木材の需要創出の機能も担う。戦後の拡大造林政策で植林した木が50―60年経過し、製材として成熟期を迎えている。これらを材料とする製品が利益を生み出すことで、林業の再生や地方の活性化などにつながる可能性がある。

【竹中工務店】最高層木造ビル都心で着工

木造建築の設計と施工で先駆者といえるのが竹中工務店だ。同社の強みは、大規模・高層の建物向けに開発した技術。例えば、耐火集成材「燃エンウッド」は独自の燃え止まり機構により木材が見える状態のまま仕上げる現し(あらわし)で使える。

今後、同社が設計・施工を担う木造建築の象徴となりそうなのが、東京・日本橋に三井不動産が着工した日本最高層の木造賃貸オフィスビル。地上18階建て、高さが84メートルで、木造高層建築物として国内最大・最高層となる。木造と鉄骨造のハイブリッド構造で、重要な要素となるのが主要な構造部材として使う耐火・木造技術だ。3時間の耐火性能を持つ集成材など国内初適用となる技術をふんだんに盛り込む。

都心で木造の大規模ビルが建設されることのインパクトは大きく、今後、木造建築の需要拡大への波及効果も期待される中、花井厚周木造・木質建築推進本部長は「コストの引き下げを含めやるべきことは多い」と指摘。適用する技術の拡充や、設計・施工の担い手の増加などが当面の課題になるとみている。

【大林組】「純木造」ビル、耐久性検証

木材を利用した研修スペース

大林組は「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行前から、中高層ビルの木造・木質化の研究に取り組んできた。その成果として横浜市中区に建設したのが、「Port Plus(ポートプラス)」だ。柱や梁(はり)、床をすべて木造にした「純木造」ビルで、22年から研修施設として利用している。

地上11階建て、高さ44メートルと純木造の耐火建築物としては国内で最も高い。木質の柱梁(ちゅうりょう)に3時間耐火認定を取得した構造材を採用している。

木造建築の普及拡大に向けた課題はコスト。軽量で加工しやすい、香り、断熱性などさまざまな利点の中から、「どれが最適なのかを提示し、それを実現するためのコストを見える化することが必要」(八木利典営業総本部カーボンニュートラル・ウッドソリューション部副部長)と指摘する。

木の経年変化のモニタリングもテーマ。これだけ大規模な木造建築はほかにはないため、外装材の経年変化について年に1回状況確認を実施。耐久性に関して継続的に検証していく考えだ。

【大成建設】小径材で長寿命の人道橋

長寿命化を実現した木造人道橋

大成建設は建築物の企画・設計・施工での木材利用促進を目標に、グループでさまざまな取り組みを進めている。同社が着目しているのが、建築物のライフサイクルにおけるCO2排出量を実質ゼロにするゼロ・カーボン・ビル(ZCB)。「将来はZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)が当たり前となり、ZCBに移行していくのではないか」(梅森浩設計本部先端デザイン部木質建築推進室長)とみる。

このために構築したのが、初期の計画段階で建築物のライフサイクルにおけるCO2排出量や削減技術の効果を可視化し、脱炭素化を体系的に評価する独自のシステム「T―ZCB」。ゼロ・カーボン・ビルの実現に向けて自社施設での検証を行っている。

屋内外の建築物に木材を積極的に適用するため、耐候性・耐久性に優れた木質建築の開発も推進。その一環で、小径木材を使いロングスパン構造と長寿命化を実現した木造人道橋を同社の技術センター(横浜市戸塚区)に建設した。大断面集成材に比べて耐力や剛性が低い小径木材の用途が大幅に広がり、今後の利用促進が見込める成果だ。

【三菱地所】グループオフィスに木目のフロア材

CLTを使い開発した床システム

三菱地所グループは木材の意匠性や機能性に着目、16年ごろからCLTを使った木造・木質化事業に取り組んできた。ビル、ホテル、空港などの構造体や内装に適用している。

CLTの新たな活用方法として、乃村工芸社などと共同で新たに開発したのが床システム。国産の天然木材を現しとした製品で、グループ会社のMEC Industry(鹿児島県霧島市)を通じて製造・販売に乗り出した。

「顧客に快適さを提供する観点で木材の活用を広げていきたい」。森下喜隆関連事業推進部長兼木造木質化事業推進室長は開発の狙いをこう説明する。第1弾として三菱地所が東京・丸の内で運営するイノベーション施設に、電源や配線を床下に収納できるフリーアクセスフロアとして100平方メートル敷設した。

ニーズを想定しているのは、主にオフィスビルや商業施設、学校など。従来のスチール製に比べて軽量で、強度の高さや炭素固定効果などの特性のほか、香りや手触りといった木ならではの質感を訴求することによって適用先を増やしていく考えだ。

日刊工業新聞 2024年06月24日

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