シャープの変調はすでに2004年から始まっていた!「世界の亀山」稼働の裏で

「マーケットを創造し“強者の論理”で世界市場をリードしたことがない」経験不足が露呈

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亀山第1工場
 シャープはメーンバンク2行から総額2000億円の金融支援を受けることが決まり、5月14日に再生を目指す中期経営計画を発表する。主力の液晶事業は分社し、官民ファンドの産業革新機構から出資の受け入れも視野に成長投資を加速させる方針だ。

 今に至るシャープの迷走はいつから始まったのか?振り返ると、2004年にたどりつく。2004年といえば、1月に世界最大の液晶パネルを生産する「亀山工場」が稼働。国内では液晶テレビ「アクオス」ブランドが市場を席巻し、まさに企業として日の出の勢いがあったころ。実はこの年の6月に掲載した特集で、早くもシャープの迷いと変調の兆しが書かれている。記事に出てくる「“強者の論理”で世界市場をリードした経験が一度もない」という不安要素は図らずも的中した。今後の経営再建に向け、市場への甘いアプローチはもう許されない。

惑うシャープ


日刊工業新聞2004年6月22日付


 シャープが惑(まど)っている。にわかに信じがたいかもしれない。液晶事業で盤石な体制を築き、メディアでは日本のデジタル家電産業の勝ち組という評価が定着している。ただ、それはほんの表層的見方に過ぎない。国内で圧倒的ブランド力を誇る液晶テレビ「アクオス」は、世界戦略に乏しく大きな壁にぶち当たっている。次の大画面液晶パネルの投資も判断に迷いがかいま見える。

見えない世界戦略


 今年6月14日。東京・赤坂プリンスホテル「五色の間」には、シャープの液晶技術の粋を結集した世界初のフル高品位(HD)対応45インチ液晶テレビが展示されていた。普段なら「さすがシャープ」ということになるが、発表会では記者から意外に厳しい質問が飛んだ。
 
 記者:液晶テレビの在庫がたまっているという話しがあるが?
 「(2004年度300万台という)販売計画は予定通り。液晶テレビ市場は世界のテレビ需要のまだ6%に過ぎない。スタートラインに立ったばかりだ」。奥田隆司取締役AVシステム事業本部長は、“液晶不振説”を一蹴した。
 
 ただ、外資系証券会社のレポートによると、昨年の北米クリスマス商戦で、30インチ前後の大画面液晶テレビが予想したほど売れなかったと指摘。リアプロジェクションやプラズマに比べ割高感が拭(ぬぐ)えないためとみられる。シャープ関係者も「海外で大型が苦戦しているのは事実」と証言する。

 2005年に液晶テレビは1200万台市場へと急成長する見込み。今後は日本から世界に需要が広がる中で、参入企業が一気に増え競争が激しくなるのは必至。20インチ以下は米デルなどパソコン系が圧倒的な価格訴求で市場を席巻(せっけん)し、薄利多売の時代に突入した。
 
 当然、シャープは得意とする大画面へ注力することになる。国内で独走する「アクオス」だが、「米国市場ではシャープよりサムスンの方がブランド力は格段に高い」(国内電機役員)のが現実だ。
 
 実はシャープは過去にマーケットを創造し、“強者の論理”で世界市場をリードした経験が一度もない。液晶テレビが初めての製品なのだ。デジタル家電で後れをとったと叩かれてきたソニーだが、「ソニーはまずグローバルの視点で考えるから海外戦略がしっかりしており、それに呼応できる人材も豊富。そこがシャープとの決定的な違い」(某証券アナリスト)。サムスンも最近はソニー流を行く。
 
 シャープ内にも危機感はある。「うちは営業が旧態依然。液晶テレビはこれからマーケティングを間違うと命とりになりかねない。ビューカムのようにいいものを作ってもシェアを落とす結果になる」(ある役員)。このような声が果たして社内の大勢になっているのか―。
 
 <再び発表会場>

 記者:国内は亀山工場の垂直統合モデルのメリットはよく分かる。海外は価格競争が激しい。商品戦略と手ごたえは?
 「お客さまの中には価格合理性のみを追求する人もいる。各地域でニーズが違い、そのマーケットが求める価格帯があればミートしていく」。奥田取締役からの答えは曖昧模糊(あいまいもこ)とした内容。裏を返せば明確な戦略がないとも解釈できる。
 
 テレビは各国によって放送方式が違うなど非常に地域性のある商品。最近、中国・上海では松下電器産業(現パナソニック)の標準品位(SD)対応のプラズマテレビが薄型テレビの販売シェアでトップにたった。フルHD対応の投入は大いに結構だが、デジタルハイビジョン放送のない「4対3型」の市場はまだ世界中にたくさんある。
 ある半導体メーカーの幹部は「シャープに限ったことではないが、日本メーカーはデジタル家電で高機能ニッチ市場にこだわりすぎ。ボリュームゾーンをやらないと世界で戦えない」と苦言を呈する。「アクオスの新製品だって無駄な機能を付けるくらいなら価格を10万円下げて欲しい」(大手家電量販店)。これは消費者の本音だろう。
 
 「来年には普及価格帯である1インチ1万円は実現できる」(奥田氏)という。ただそれが本当に普及価格なのか真摯(しんし)に考えなければならない。売価ダウンは液晶パネルの生産コストと密接に連動してくる。
<次のページはグローバルブランドには力不足>

日刊工業新聞2004年06月22日掲載記事を元に再編集

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

売上高、利益、投資額、従業員数(人材の質)、各種社内制度の充実、、理想はこれらの成長曲線が同じカーブを描くこと。どれかが極端に突出すると、下降の波が来たときに耐えきれなくなる。シャープは明らかに一時期、「身の丈」を逸した。パナソニックもPDPなどで大型投資に失敗、ソニーは約10年もテレビ事業で赤字を垂れ流したが、両社とも巨額赤字に何度か耐えられるキャパシティーを持っていた。今の状況はその違いだろう。

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