脱炭素社会実現へ包括連携、清水建設と早稲田大学がタッグを組む意義
清水建設と早稲田大学は、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)社会の実現に向けた包括連携協定を締結した。人材交流や文理融合の学術交流、先端技術の共同研究開発などに取り組んでいく。資材の調達から建築、解体までの各段階で多くの二酸化炭素(CO2)を排出する建設業界では、脱炭素化の取り組みが今後さらに重要性を帯びてくる。両者が持つ最先端の知見を融合することで、早期の成果創出が期待される。(編集委員・古谷一樹)
清水建設の拠点「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」で行われた両者の締結式。「産学連携を通じた最先端の技術や知見で新たな価値をともに創造していきたい」(田中愛治早稲田大学総長)、「ノヴァーレを核に全社を挙げてイノベーション活動に取り組んでいく」(井上和幸清水建設社長)。両者ともに成果の創出に向けて強い意欲を示した。
具体的に取り組むテーマや方法などはこれから詰める計画だが、連携対象となり得る範囲は幅広い。人工知能(AI)や3次元(3D)モデリング技術「BIM」、建設現場向けのロボットといった技術面の共同研究に加えて、「建物や労働者のウェルビーイング(心身の幸福)など人文社会系の分野でも連携が見込める」(早大の林泰弘カーボンニュートラル社会研究教育センター所長)。
清水建設にとっても大学と包括的にタッグを組むことの意義は大きい。「我々の強みは、開発した技術を現場で実証できること。大学と我々の技術を融合し、実際の建物で検証していく」(掛川秀史技術研究所長)と強調。社会実装に向けた研究開発の進捗速度向上などの効果に期待を寄せる。
両者はこれまでも共同研究などで交流があったが、研究室や事業部単位での結びつきにとどまっていた。包括的な連携によって、研究者や技術者の効果的なマッチングが生まれる可能性がある。関係施設の相互利用や部門や学部を横断した交流がさらに活発化することで、起業などビジネス面での成果も見込める。
連携の舞台でもあるノヴァーレは、「イノベーションマインドを持った社員を一人でも増やし、220年という歴史の中の古い部分を変えたい」(井上社長)との思いを込めて設置された経緯がある。外部の知見を活用し、共同研究で生まれた技術を新規事業にどう結びつけていくか。今回の包括連携は、その試金石として注目を集めそうだ。