AIに著作権は不要?結局グーグル次第か
「過剰な保護はそぐわない」知財本部の検討会が見解まとめる。次年度へ持ち越しさらに議論
一国では実行性を担保できない
一方、プラットフォーマーは大量で無償のコンテンツで消費者を集め、広告収入や会費などで収益を上げている。プラットフォーマーはAI製と人間製にかかわらず、集客効果のあるコンテンツには報酬を払っている。
AI開発で世界を牽引しているのもプラットフォーマーだ。人間もAIもプラットフォーマーの傘の下で創作している。クリエーターは出版社や放送局からネット配信事業社に商流が変わるだけで、すでに受け入れてきたともいえる。
創作のAI化が進めばコンテンツの量はさらに爆発的に増える。そのときプラットフォーマーが創作へのインセンティブをどう調整するのかはわからない。検討委員会ではプラットフォーマーとの関係を強化し、実体把握や調査分析を続けるとまとめた。
法律の限界見据え、現実路線選ぶ
著作権法はクリエーターの権利の保護し、文化の発展させる目的で作られた。AIに著作権を認めれば独占や排他が起こり、人間の創作が萎縮しないかと検討した。だが現状では著作権の権利処理のコストは肥大化し、肝心の創作活動はプラットフォーマーのさじ加減で生計が立つかが決まる。法律の限界を見据えて、報告書案は現実路線を選んだといえる。
報告書案では人間の創作物がAI創作物の間に埋没するリスクについて二つの対策が示された。一つは人間が創作の質を高めること。もう一つが人間の創作物を、より利用しやすい環境を整えることだ。どちらも一国の法律では解決できない現実がある。
人間のクリエーターは質の高い作品を生み出すまでに修行が必要だ。AI製のコンテンツが網羅的に氾濫している状況で、修行中のクリエーターを誰が何人養えるのか、その投資は回収できるのか未知数だ。
人間製創作物への優遇もプラットフォーマーに依存する。ランキングやレコメンドに人間製へのバイアスを採用してくれるかどうか。現状ではコンテンツにAI製と銘打つと価値が損なわれる。
消費者はAI作品だとがっかりする!?
消費者が作品を楽しんだ後にAI製と言われるとがっかりしてしまう。大部分占めるAI創作物の価値を失っても、人間製というプレミアをあえて謳うことにプラットフォーマーは合理性をみいだせるか。消費者がAI製とわかった上で、それでも作品を楽しめれば、AI製への偏見が見直されて人間製プレミアは薄くなる。
そもそも一国では解決策の実行性は担保できない。国際的に協調し、世論も制度も整える必要がある。座長の中村伊知哉慶應義塾大学教授は「AIによる創作は、本格的に議論している国はまだないだろう。この極めて難しいテーマを正面から考え、問題や対策を洗い出した。日本の検討状況を海外に発信して、国際的な議論をリードしたい」と力を込める。
コンテンツ産業は米国発のイノベーションに翻弄されてきた。これは米国自身や欧州も同様だ。創作AIで議論は新しい節目を迎える。国際的な議論をリードできるか注目される。
(文=小寺貴之)
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