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ドイツ・シーメンスは製造業のデジタル化を先導することができるか

ライバルGEに対抗、「ハノーバーメッセでデジタル化工場の将来像をお見せしたい」(同部門CEO)
ドイツ・シーメンスは製造業のデジタル化を先導することができるか

FA機器をベースにデジタル化シフトを進める(バイエルン州エアランゲンのFA機器技術サービスセンター)


日本のFA業界にも脅威


 ドイツが国策として進める、モノのインターネット(IoT)技術の産業応用施策「インダストリー4・0(I4・0)」。4月にハノーバーで開かれる「ハノーバーメッセ」はI4・0の一大イベントになる。ドイツ電機大手、シーメンスのデジタルファクトリー部門の出品予定からは、ラインアップの拡張を整然と、統合的に進める意志がうかがえる。

 目玉の一つになりそうなのが、ベータ版の提供を始める「マインドスフィア」と名付けたクラウド型システム。シーメンスのFA機器を積んだ工作機械などから、小型の接続装置を通じて稼働状況などのデータを収集する。

 集めたデータは予防保全などのサービス強化に使える。背後ではおそらく、ビッグデータ解析システムの「シナリティクス」も併用すると見られる。

 シーメンスFA製品のキャッチフレーズは「トータリー・インテグレーテッド・オートメーション(TIA)」。「TIAポータル」と呼ぶFAシステム開発ソフトも全面刷新し第14版を投入する。興味深いのが、これに合わせて新ソフトと連携する新型のサーボモーターや電力計、遮断器を投入することだ。

 新しいサーボを使えば、変減速やカムなどの複雑な動作を簡単にソフト的に再現できるという。また電力計と遮断器により、工場のエネルギー管理機能をFAシステムに統合し、「トータリー・インテグレーテッド・パワー(TIP)」として打ち出す。

FA商品群、PLMやMESとシームレスに統合


 さらにはこうしたFA商品群を、CADをベースとしたPLM(製品ライフサイクル管理)商品群やMES(製造実行システム)とシームレスに統合するという。「長い時間をかけてデータモデルを再設計し『チームセンター(基盤ソフトの名前)』の上でPLMとFAが同じデータを扱えるようにした。ハノーバーでデジタル化工場の将来像をお見せしたい」(デジタルファクトリー部門CEOのアントン・フーバー氏)。I4・0の描く世界をシーメンス1社で実現しにかかるような壮大な構想である。

 ただ、こうしたシーメンスの取り組みは、批判的にとらえることも可能だ。ドイツが国策としてI4・0を進める本来の目的の一つに「ミッテルシュタント」と呼ばれる強い中堅企業を支援することが挙げられる。

囲い込みでは中堅企業にメリットが伝わらない?


 だがシーメンスのデジタル製品群の特徴は「インテグレーション」をキーワードにした壮大なラインアップにある。すべてシーメンス製品でそろえればユーザーにメリットが出る。一方でそれは囲い込みの典型でもあり、同社製品を部分的にしか使えない中堅企業にとってのメリットは伝わってこない。

 必要なソフト会社の買収を着々と重ね、実世界と仮想世界をつなぐ技術を蓄えるシーメンス。日本のFA業界には手ごわい競合であることは間違いない。
日刊工業新聞2016年3月15日/16日
清水信彦
清水信彦 Shimizu Nobuhiko 福山支局 支局長
シーメンスのデジタルファクトリー事業部があるニュルンベルクまでのこのこ出かけていって、この記事を書きました。ハノーバーメッセの事前説明会みたいな内容だったのですが、ほとんどドイツ語で、ドイツ語を同時通訳した英語がまた超早口で、全く聞き取れず、日本に帰ってきて録音音声を何度も聞き返してこの記事を書きました。なのでバリューがあるのかどうだかよくわかりません。

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