現体制維持に人件費2倍…どうする?学術会議、独立リソース確保課題
日本学術会議のあり方をめぐる議論が、予算や事務局人員などの具体的な検討に入った。学術会議はヒト・モノ・カネを国に依存している。事務局の50人は内閣府の国家公務員だ。学術会議を国から切り離し、民間から人材を集めると現在の体制を維持するだけでも人件費が2倍になるとされる。仮に独立するとしても、いかにリソースを確保するのかが問題になっている。(小寺貴之)
「政府側は独立に必要な金はいくらでも払うと言っている」「それで予算を組んだとして国会は通るのか」―。関係者間ではこんな言葉が飛び交っている。学術会議を支えるヒト・モノ・カネは国から提供されてきた。事務局員の50人は内閣府の国家公務員で、建物は国の資産、運営予算は国からの10億円で組織を切り盛りしてきた。特に事務局へ政策に通じた国家公務員が供給されている利点が大きい。多様な学者の意見をすり合わせ、政策と照らし合わせるには政策立案の経験者が必須になる。
仮に独立して民間から人材を集めるとなると、国家公務員からコンサルタントに転職した人材を再獲得することになる。年収で1000万円、福利厚生などを含めて1人2000万円。50人の事務局を維持するのに現在の予算の10億円が消える計算だ。
そして博士号を持つ専門人材も嘱望されている。現在は連携会員などとして、若手研究者が実質手弁当で貢献している。懇談会の岸輝雄座長・東京大学名誉教授は「アカデミーの役割を果たしていくための資金がまったく足りていない。これは委員の中でも認識が一致している」と説明する。懇談会では最低でも現状の2―3倍は必要と議論されている。
問題は給与で集めた人材は給与で引き抜かれる点だ。岸座長は「ドイツのアカデミーでは常勤として人を雇っても数年で辞めている」と指摘する。日本では国際卓越研究大学が稼働すると研究支援人材の争奪戦になると懸念されている。
そして学術会議の独立性を高めるために財源の多様化が求められている。学術的知見を提供し、民間や社会から対価を得ることになる。問題は学術会議の会員は大学などに本職があり、大学からも外部資金獲得を求められている点だ。組織としては競合し、個人としては二重要求の構造になる。岸座長は「研究者個人でなく、学術会議が組織として資金を集めることが必要になる」と指摘する。
懇談会では学術会議の独立を推す声は少なくない。仮に独立するとなると、不確実性が高い環境での船出となる。ヒトやカネはもくろみ通りに獲得できるのか。数年かけて実現性を確かめながら新法人への移行を進めないと破綻しかねない危うさがある。この過程を誰が監督し、対立する内閣府と学術会議の間を調整するのか。懇談会は独立のお墨付きだけ与えて役割を終えるのか。議論が具体化するにつれ、難問が顕在化している。