老舗下着「創立以来の危機」…ワコールが〝痛みを伴う〟構造改革
顧客・ブランド・人材で新戦略
ワコールホールディングス(HD)が「創立以来の危機」(矢島昌明社長)に直面し、構造改革に乗り出す。コロナ禍の影響や顧客ニーズの変化に対応しきれず、創業以来初の最終赤字となった2023年3月期(国際会計基準)に続き、24年3月期も最終赤字の見通し。連結売上高も過去9年間にわたって期初計画未達の状況が続くなど業績が低迷する中、希望退職募集といった大なたを振るうことになった。「業績的にはいったんかがむ」(同)ことで、再成長への道筋を付けたい考えだ。(京都・新庄悠)
「自社商品やモノづくりに対するおごり、楽観的な外部環境の見立てなどから変化に応じた速やかな改革を実施してこなかった」。矢島社長は厳しい言葉で、これまでの経営状況を説明した。現在の業績不振に伴い中期経営計画の最終年度を25年3月期から1年後ろ倒した上で、目標値も売上高2030億円(当初計画は2200億円)へと下方修正。併せてリバイズ(修正)版として、構造改革を盛り込んだ。
直近の収益悪化は米国子会社の事業撤退による減損だが、強みとしてきた手厚い対面接客がコロナ禍では難しくなり、人件費がかさむといった課題も噴出。「当社がこだわっていた胸の形をきれいに出せる造形性よりも、今は快適性が求められる。またタイムパフォーマンスが重視され、長い時間接客を受けたくない人もいる」と矢島社長が振り返るように、旧態依然としたビジネスモデルから抜け出せず、自社のサプライチェーン・マネジメント(SCM)の弱みが顕在化したと分析する。
今回見直した中計では、不採算店の撤退や商品の削減など“痛みを伴う”施策を織り込んだ。構造改革の中心となるのは売上高の半分を占める、中核子会社ワコールの事業。SCMやコスト構造などの改革を柱に早期に収益体質への転換を目指す。
SCMでは、これまで1年以上費やしていた商品開発期間を約半年に短縮する。店頭での売れ行きに合わせた需要連動型の生産方式にシフトし、過剰在庫抑制にもつなげる。またブランド戦略も見直し、九つの基幹ブランドは変更せず、その下にぶら下がる構成ラインを絞り込む。25年3月期までに構成ラインの4割、品番数の1割超を削減。ワコールの川西啓介社長は「量販店向けや専門店向けなど個々のブランドを育成してきたが、市場全体の縮小や顧客の志向も多様化し、顧客から見ると分かりづらくなっていた」と説明。店舗撤退や希望退職などと合わせたコスト削減効果は、26年3月期までに70億円を見込む。
ワコールではこれら構造改革とともに「顧客戦略」「ブランド戦略」「人材戦略」の、三つの成長戦略も掲げた。一方で、ワコールHDが長期ビジョンとして31年3月期に掲げる経営目標は変更しなかった。老舗下着メーカーが再び成長に転じるためには、速やかに構造改革をやりきるしかない。