インダストリアル・インターネットの重要要素「フラッシュ・ボーイズ2.0」とは
10億分の1秒単位の超高速ネットワーク、何兆ドルものコスト節減生む
ノンフィクション作家、マイケル・ルイス氏による『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち(原題 Flash Boys)』をご存じだろうか。
この本は勝率100%の金融取引を合法的に行う理系集団の存在を暴き、2014年の発刊時は大きな話題を呼んた。彼らがとった手法は“超高速トレーディング”とか“アルゴリズムトレーディング”と呼ばれるもの。10億分の1秒単位の超高速ネットワークを活用し、他の投資家より“ナノ秒” 早く取引を実行するというもの。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)の場合、この「超高速通信」をインダストリアル・インターネットに活用している。さて、ここからは金融取引の世界ではなく、産業界の話。
昨年7月、GEグローバルリサーチセンターの科学者が、米国の東西を結んで実施したデモの模様を公開した。まず、ニューヨーク州ニスカユナの研究所に設置した「振り子」を左右に揺らし始めた。
同様に、約5,000キロ離れたカリフォルニア州サンノゼでも、別の振り子を揺らした。ふたつの振り子の動きは最初、わずかにずれていた。しかし、ニューヨークにあるソフトウェアがカリフォルニアの振り子に取り付けた機器へ指示を出すと、東海岸と西海岸にある2つの振り子は完全にシンクロした。
単純に思われるかもれしれないが、実はこの作業、決して簡単なタスクではない。というのも、振り子に設置された機器とソフトウェアが動きを測定し、それぞれの振り子の位置を分析したデータをやりとりするのにも時間がかかってしまうからだ。
世界中の機器を互いに会話させる「インダストリアル・インターネット」の世界を実現させるには、この技術的難問は克服しなければならない課題だ。
しかしクリアできれば、航空産業から電力産業、ヘルスケア産業に至るまで、産業界に効率改善や何兆ドルものコスト節減をもたらす可能性が見えてくる。
それゆえ、米シスコシステムズ、同ナショナルインスツルメンツ、GEなど、インダストリアル・インターネット実現に取り組む企業は、ニューヨークとカリフォルニアを繋ぐ世界最速水準の通信用光ファイバーの敷設を進めてた。
この回線のデータ転送速度は100ギガビット/秒に達する予定で、6,000本の映画を同時にダウンロードするのにも余裕がある。標準的な家庭用インターネット接続速度(15メガビット/秒)の約5,000倍だ。
この実験では、光速データ転送リンクが、2つの装置の互いの位置や振動、速度ベクトルなど、振り子の位置や動きを示すパラメータ情報の交換を可能にした。
この点、日本は国土も狭く高速かつ高品質な通信回線が整っており、インダストリアル・インターネットを活用して産業効率を向上させるには大きなアドバンテージがあることも確か。
GEのソフトウェアリサーチ担当副社長、コリン・パリスはこう説明する。「私たちは、全米中に膨大なビッグテータ網を張り巡らせて、必要なデータをすべて同時に伝送できるようにした。このデモが立証している。この、ふたつの振り子の同期は、離れた場所にある機器の機能最適化も可能であることを示している」。
まず2基の風力タービンを接続し、タービン同士が互いの動作状況をリアルタイムに把握。次に15基、さらに多くの機器を…という具合だ。
将来は、風力タービンやジェットエンジン、人、コンピューター、機器などが組み合わさった何十億という数のシステムの間で、世界中の何エクサビットものデータをすべて同時伝送できるようになるだろう。
<次のページは、日本はデバイスで先行?>
この本は勝率100%の金融取引を合法的に行う理系集団の存在を暴き、2014年の発刊時は大きな話題を呼んた。彼らがとった手法は“超高速トレーディング”とか“アルゴリズムトレーディング”と呼ばれるもの。10億分の1秒単位の超高速ネットワークを活用し、他の投資家より“ナノ秒” 早く取引を実行するというもの。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)の場合、この「超高速通信」をインダストリアル・インターネットに活用している。さて、ここからは金融取引の世界ではなく、産業界の話。
昨年7月、GEグローバルリサーチセンターの科学者が、米国の東西を結んで実施したデモの模様を公開した。まず、ニューヨーク州ニスカユナの研究所に設置した「振り子」を左右に揺らし始めた。
同様に、約5,000キロ離れたカリフォルニア州サンノゼでも、別の振り子を揺らした。ふたつの振り子の動きは最初、わずかにずれていた。しかし、ニューヨークにあるソフトウェアがカリフォルニアの振り子に取り付けた機器へ指示を出すと、東海岸と西海岸にある2つの振り子は完全にシンクロした。
単純に思われるかもれしれないが、実はこの作業、決して簡単なタスクではない。というのも、振り子に設置された機器とソフトウェアが動きを測定し、それぞれの振り子の位置を分析したデータをやりとりするのにも時間がかかってしまうからだ。
世界中の機器を互いに会話させる「インダストリアル・インターネット」の世界を実現させるには、この技術的難問は克服しなければならない課題だ。
しかしクリアできれば、航空産業から電力産業、ヘルスケア産業に至るまで、産業界に効率改善や何兆ドルものコスト節減をもたらす可能性が見えてくる。
ニューヨークとカリフォルニアを繋ぐ世界最速水準の通信用光ファイバー
それゆえ、米シスコシステムズ、同ナショナルインスツルメンツ、GEなど、インダストリアル・インターネット実現に取り組む企業は、ニューヨークとカリフォルニアを繋ぐ世界最速水準の通信用光ファイバーの敷設を進めてた。
この回線のデータ転送速度は100ギガビット/秒に達する予定で、6,000本の映画を同時にダウンロードするのにも余裕がある。標準的な家庭用インターネット接続速度(15メガビット/秒)の約5,000倍だ。
この実験では、光速データ転送リンクが、2つの装置の互いの位置や振動、速度ベクトルなど、振り子の位置や動きを示すパラメータ情報の交換を可能にした。
この点、日本は国土も狭く高速かつ高品質な通信回線が整っており、インダストリアル・インターネットを活用して産業効率を向上させるには大きなアドバンテージがあることも確か。
GEのソフトウェアリサーチ担当副社長、コリン・パリスはこう説明する。「私たちは、全米中に膨大なビッグテータ網を張り巡らせて、必要なデータをすべて同時に伝送できるようにした。このデモが立証している。この、ふたつの振り子の同期は、離れた場所にある機器の機能最適化も可能であることを示している」。
まず2基の風力タービンを接続し、タービン同士が互いの動作状況をリアルタイムに把握。次に15基、さらに多くの機器を…という具合だ。
将来は、風力タービンやジェットエンジン、人、コンピューター、機器などが組み合わさった何十億という数のシステムの間で、世界中の何エクサビットものデータをすべて同時伝送できるようになるだろう。
<次のページは、日本はデバイスで先行?>