スズキ・ダイハツ…軽自動車の低炭素化へ入り乱れるメーカーの思惑
軽乗用車の本命も電気自動車(EV)か―。新車の40%を占める軽の低炭素化をめぐり、各メーカーの思惑が入り乱れている。日本特有の市場であるため、登録車のEV開発と異なり一筋縄ではいかない。需要は交通の不便な地域や2台目の保有が多く、低価格が優先する事情も変わらない。むしろ軽商用車での優位性や、ハイブリッド車(HV)も依然有望視される。単にEVに置き換えるのでなく市場に適する軽独自の低炭素化が、長期には進展しそうだ。(大阪・田井茂)
「軽ワゴンのコンセプト車『eWX』は直感的に使いやすく操作も分かりやすい。それは大切なことだ」。スズキの鈴木俊宏社長は東京・有明の東京ビッグサイトなどで開かれている「ジャパンモビリティショー2023」で、eWXをこう説明した。女性や高齢者に人気の軽は運転の容易さもニーズが強い。軽の操作性を簡素なEVでさらに高める戦略を前面に打ち出す。
ダイハツ工業も外装パネルを交換し用途を変えられるEVや、EVの静かさを楽しめるオープンカーなどのコンセプト車を同ショーに出展。外部給電できる商用車も参考出品し、EVで広がる軽の将来性を示した。
ただ、乗用車の本格的な軽EVは日産自動車と三菱自動車が2022年6月に共同開発車を先行発売後、対抗車がまだ現れていない。むしろ有望なのは商用車の軽EV。ホンダは24年春に「N―VAN e:」を、トヨタ自動車とダイハツとスズキは共同開発車を23年度中にも、それぞれ発売する。商用車は毎日の走行ルートや距離、充電時刻を見込みやすい。優遇税制や補助金も含めると「毎日走れば買っても損せず新たな市場を創り出せる」(業界関係者)。距離や充電時刻を読みにくい乗用車は、充電設備が不足する日本では頭打ちになる可能性が高い。
EVのコストは車載電池などで高いと約100万円増える。補助金が終われば、技術革新や量産効果でコストが下がらないと、低価格が売りの軽には現実的な選択肢でなくなる。そこでダイハツはエンジンで発電し電力のみで走行する軽HVの開発も注力する。低コストで低燃費とEVの走りを両立でき、主力車種に採用を広げようとする。井出慶太コーポレート統括本部統括部長は「軽の低炭素化に100%の解は見つかっていない。EVやHV、植物燃料などから選ぶのは顧客になる」と予想する。乗用車と異なる軽の開発戦略が、これまで以上に求められそうだ。