東北で新しい都市づくり「会津若松編#2」ー スマートシティーは“データ都市”
インテル、オラクル、セールスフォース、NEC、富士通・・IT大手を引き寄せる
“データ都市”が充実した住民サービスへ
日刊工業新聞2014年9月10日
福島県会津若松市が推進中のスマートシティー(次世代環境都市)構想で、再生可能エネルギーの活用や電力の需給調整は、目指す姿のほんの一部だ。交通、福祉、農業、観光などの市民生活にかかわるあらゆるデータを集める。そのデータを活用して政策を決め、充実した住民サービスの都市をつくるのが目標だ。この実現のためにデータ分析を地元経済を支える新産業に育てようとしている。
“地産地消”の司令塔
10月、再生可能エネルギーの“地産地消”の司令塔となるエネルギーコントロールセンター(ECC)が市内の工業団地で開業する。同じ団地内で運転を始める大規模太陽光発電所(メガソーラー)、2012年夏に操業したグリーン発電会津の木質バイオマス発電所、近隣にある電力会社の水力発電所の各発電情報をECCに集約。地域でつくった電力を市内で使うために電力需給を調整する。経済産業省の支援を受けて準備してきた。
総務省の事業として市内の家庭を中心に100カ所にスマートメーター(通信機能付き電力量計)が配備されている。計測した電力データは地元のデータセンターで管理しており、地域のデータを住民サービスに利用できる。経産省の事業でスマートメーター500台の追加設置も決まっている。
センサーを張り巡らされた街
市はスマートメーター以外のセンサーも市内各地に張り巡らせようと考えている。ブレーキの頻度が多い道路、福祉や医療の情報、降雨、建築物の劣化といったさまざまなデータを集める。
市企画政策部の高橋智之企画副参事は「データに基づいた政策判断をするため」と説明する。データの分析結果から本当に必要される住民サービスと予算を見極める。住民サービスの充実と行政の効率化がデータ収集の狙いだ。
データを都市づくりに活用するため、集めたデータを“生きた”情報へと変換する「アナリティクス人材」の育成拠点も整備する。IT専門の会津大学と連携して、企業に市内で集まるデータを研究用に提供する。企業は都市そのものを“実験場”とし、技術検証ができる。
アナリティクス産業が市内に集積すると「農業や観光業の活性化にもつながる」(高橋副参事)。市内の農業や観光もデータに基づいた効率的な経営ができるようになるからだ。新ビジネスの創出にも期待する。
08年秋のリーマン・ショック後、地域経済を支えていた半導体各社の工場が次々に縮小した。高橋副参事は「相当の危機感があった」と振り返る。
数千人規模が職を失ったはずなのに、仕事を探すのは数百人だけ。このギャップに「数千人が市外へ流出したとしか考えられなかった」。そこで、アナリティクス産業に雇用の受け皿を求めた。
データを活用したスマートシティー構想は5月末、内閣官房の「地域活性化モデルケース」に採択された。“データ都市”の実現に向けた取り組みが始まる。
(文=松木喬)
※肩書きや内容は当時のもの