LNG未利用冷熱でCO2回収、東邦ガスが切り札にしたい2つの手法
低コスト・省エネで優位性
東邦ガスが液化天然ガス(LNG)を気化する時に生まれる冷熱エネルギーを使った二酸化炭素(CO2)分離回収技術の開発に注力している。他の手法と比べ必要なエネルギー量を減らせる可能性を持つ。冷熱エネルギーはLNG基地で発生するが、その多くを使い切れずに海に放出している。低コストかつ省エネルギー化という優位性を磨き、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)の切り札に育てる。(名古屋・永原尚大)
冷凍食品を持ち帰ると付いてくるドライアイス。固体となったCO2で温度はマイナス79度C。日常生活で見かけるこの物体が、東邦ガスによるCO2分離回収技術のカギを握る。
同社が開発するのは、発電所や工場の排ガスからCO2を分離させる「クライオキャプチャー」と、大気中から回収する「クライオDAC」と呼ぶ二つの技術。どちらも年間数十万トン以上のCO2の分離回収を想定する。
クライオキャプチャーは、アミンという液体の化学物質でCO2を回収する手法で、工程のエネルギー使用量削減を図る。排ガスがアミンを通過するとCO2は液中に吸収されるが、CO2を取り出すためには溶液を加熱したり真空にしたりする処理が必要。
この取り出す工程でマイナス162度Cの冷熱エネルギーが活躍する。気体のCO2をドライアイスにすると、装置内が真空となり溶液からCO2が飛び出すためだ。冷熱が真空ポンプの動力になるイメージだ。名古屋大学などと共同で研究を進めており、CO21トン当たりの回収コストは2000円台を目標に設定。2030年の社会実装を目指している。
大気中からCO2を直接回収するDACにも冷熱が生きる。東邦ガスが開発する「クライオDAC」の動作原理は、前述の手法と同じ。だが、排ガス中のCO2濃度が約10%に対し、大気中は約0・4%という条件が「技術的難易度を跳ね上げる」(同社研究者)。25年から29年にかけてパイロット機を開発した上で実証を重ね、50年には商用規模のプラントを世界に普及させる構想だ。
DAC技術では、カナダのカーボン・エンジニアリングやスイスのクライムワークスが先行しているが、分離回収したCO2を利用可能な吸収前の状態に戻すためには圧縮機や高温熱源が必要となる。冷熱によるDACは「熱負荷を抜本的に低減できる点が最大の特徴となる」(同)。
東邦ガスは回収したCO2の活用先として、海外のガス田など地中に貯留する構想を持つ。9月上旬には、豪エネルギー大手のウッドサイド・エナジーなどと連携し、30年度には中部地域で回収したCO2を豪州に貯留する取り組みの事業性調査を始めた。水素と合成して都市ガス原料のメタンを作る「メタネーション」にも有望だ。
CO2の活用機運が高まる一方で、根本を握る冷熱による分離回収は存在感を発揮することができるか―。実現に向けた期待が徐々に熱を帯びる。