CO2直接回収にLNG未利用冷熱、日揮が名大と実用化目指す
日揮ホールディングス(HD)は名古屋大学と共同で、液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の未利用冷熱を活用し、大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収する技術「DAC」の開発を進めている。社会全体でDACが確立していない中で、設計・調達・建設(EPC)を得意とするLNG関連設備と組み合わせて実用化できれば、他社との差別化要因になる。(戸村智幸)
CO2回収は脱炭素手段として期待され、重工業系などの関連各社が発電所やプラント、ゴミ処理場から回収する実証を計画・実施中だ。一方、DACは川崎重工業などが取り組んでいるものの、まだ開発段階にある。
LNGはマイナス162度Cの液体で輸入した後、受け入れ基地で海水をかけて気体に戻す。その際に周囲の熱を奪うことで冷熱が発生するが、利用されていない。日揮HDの国内事業会社の日揮(横浜市西区)は、名大院工学研究科の則永行庸教授が開発した技術を活用し、共同で実用化に取り組んでいる。
CO2回収で一般的なアミン吸収液による化学吸収法がベースで、吸収塔、再生塔、昇華槽という機器を用意する。最終工程の昇華槽にLNGの未利用冷熱を活用するのが特徴だ。CO2を冷熱で冷やして固体(ドライアイス)にすることで回収する。各機器の圧力差を利用し、エネルギー消費を抑えられるのが利点だ。
日揮の藤本高義プロジェクトソリューション本部エネルギーソリューション部プロジェクトマネージャーは「DACが確立できていない中で、当社が貢献できないかと思っていた」と明かす。
今後の計画では、ベンチプラントを名大に設置し、2024年度後半にも稼働させる。27―28年度には年50トン回収するパイロットプラントを稼働し、29年度には商用プラントの概念設計を完了する計画だ。名大院の則永教授は「大気中のCO2は低濃度なので、効率よく回収する設備が必要になる」と今後を展望する。
商用化に向けては、パイロットプラントの設置先の確保が不可欠だが、ある程度めどがついている。東邦ガスのLNG受け入れ基地だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で取り組んでおり、東邦ガスも参画しているためだ。
日揮HDは国内外でCO2の回収・貯留(CCS)設備を建設した実績があり、実証中の案件も多い。これらは天然ガス精製、LNGプラントなど上流向けだ。LNG受け入れ基地という下流向けの今回の技術を実用化できれば、LNGの一連の商流にCO2回収ビジネスを展開できる。