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寄付金の累計6億円、バリューブックスが挑む古本業と社会貢献

寄付金の累計6億円、バリューブックスが挑む古本業と社会貢献

買い取れなかった古本を再生したノート「本だったノート」

バリューブックス(長野県上田市、清水健介社長)には毎日、2万―3万冊の中古本が全国から届く。買い取った本は自社や外部のサイトに出品して販売しており、年400万点以上を販売するまでに成長した。

倉庫での作業

ただの古本業ではなく、社会貢献にも携わるのが特色だ。2007年の創業当時、「倉庫で働いていて社会との関係が希薄」という理由で従業員が退社したことがきっかけだ。鳥居希取締役は「創業者(中村大樹氏)が真剣に悩み、買い取れなかった本を保育園や高齢者施設への贈り物にすることを思いついた」と明かす。

ただ、本業に追われ寄贈が滞ることがあった。中村氏はNPOの代表に相談し、「チャリボン」を着想した。本を売った人が買い取り額を寄付にできる仕組みで、贈り先はNPOや大学から選べる。同社にとっては買い取り代金の支払先を変更するだけで、本業による社会貢献を継続できる。古本は現金よりも寄付のハードルが低く、仕入れる本の1割がチャリボンとなり、11年から23年4月末までの寄付金の累計は6億円を超えた。

18年には買い取り送料を有料化した。汚れがあったり、必要なコードがなかったりすることで、価格が付かない本を減らすためだ。寄贈のほか、ノートに再生して有効活用もしてきたが、大多数は廃棄して再生紙となる。わざわざ上田市まで送らずに、自宅近くで古紙回収に出した方が環境負荷は少ない。また、買い取れない本にも送料や人件費がかかり、査定額を抑える要因となっていた。有料化の決断は、送料無料が常識となっている業界に一石を投じた。

同社は公益性の高い企業の証である米国団体の「Bコーポレーション」認証に挑んでいる。審査中だが、認証の参考書を発刊した。「1社で取得しても意味がない。仲間が増える方が重要」(鳥居取締役)と理由を語る。

従業員は300人を超え、地域に雇用を生んだ。地方に拠点を置きながらも、社会変革を起こせることを同社が証明している。

日刊工業新聞 2023年09月08日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「お金を寄付してください」は抵抗がありますが、「古本を寄付してください」はお願いしやすいです。本棚にある本を役立てたくなりました。また、痛みがあっても「もしかしたら売れるかな」と送ってしまいそうですが、その本の環境負荷とコストに気づかされました。中古本を介して地方に雇用を生んだビジネスモデルも、興味深かったです。

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