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「持ち切り運用」の投資信託の新規設定が相次ぐ理由

「持ち切り運用」の投資信託の新規設定が相次ぐ理由

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欧米の高金利追い風に

国内外の公社債に投資し、償還まで保有して安定した運用成果を目指す「持ち切り運用」の投資信託の新規設定が相次いでいる。いずれも4年程度の信託期間で、元本確保と一定の利回りを期待できる点が特徴だ。世界的なインフレ進行により欧米の金利水準が上昇し、利回り面で債券投資の魅力が高まったのが背景にある。国内の物価上昇から資産の目減りを防ぐ上で債券投資の安心感も訴求している。(編集委員・川口哲郎)

三井住友DSアセットマネジメントは信託期間約4年の限定追加型投信「三井住友DS ワールド・ボンド・フォーカス」を設定し、29日まで購入申し込みを受け付けている。4年間で4%前後の基準価額の上昇を目指す。世界各国の米ドル建て・ユーロ建ての債券に投資し、モデルポートフォリオでは米ドルが83・4%、ユーロが16・6%だ。モデルでは投資適格未満のハイ・イールド債券も4分の1ほど組み入れ、最終利回りは6・41%と試算する。

運用管理費用である信託報酬を0・675%(税抜き)と業界最低水準に抑えているのが特色だ。低くできた要因は、海外の運用会社に委託せずに自社で運用するためだ。外部に委託する分のコストが浮き、「リーズナブルな設計にできた」(田村一誠投資営業第二部長)。欧米やアジアの拠点を活用したリサーチ体制が自社運用を可能にしている。

販売は三井住友銀行とSMBC日興証券が手がける。債券は当該企業が債務不履行に陥らない限り元本が返ってくるため、相対的にリスクが低い。「投資の第一歩を踏み出すのに有効」(同)とし、投資初心者を中心に販売を想定している。

フィデリティ投信は持ち切り運用の「フィデリティ・グローバル社債・ファンド」を22日に設定する。現行の少額投資非課税制度(NISA)が27年に終了するため、27年12月を償還日とした。日本で持ち切り運用に特化したファンドを設定するのは初めて。「米国で政策金利がピーク付近に到達して社債の利回りが魅力な水準になっている。債券投資を始めるには良好なタイミング」(フィデリティ投信)とし、グループの世界規模での調査力を生かして銘柄を選定、運用する。

東京海上アセットマネジメント(AM)は株式に転換できる権利の付いた転換社債(CB)を組み入れた「東京海上・先進国好利回りCBファンド」を4日に設定した。約4年2カ月の償還まで保有するのが基本で、株価上昇に伴うCBの値上がり益の獲得も狙える。英国保険大手の運用会社が運用を担う。「利回りが取れる環境になっている」(東京海上AM)のが導入の決め手となった。

持ち切り運用に特化したファンドは目新しい手法でないが、件数も金額も増加傾向にあり、足元の増加ペースも高い。国内は近年で高い物価上昇率が続く一方で、銀行預金の金利はゼロに近い。保有する資産を底上げする上で、安定した利回りが期待できる債券の特性が受け入れられているようだ。各社は持ち切り運用型ファンドをきっかけに投信積み立てなど本格的な投資を促したい考えだ。

日刊工業新聞 2023年09月08日

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