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「地域との共生」を起点に 電気炉メーカーが進める循環型社会への取り組み

岸和田製鋼は鉄スクラップを原料に、鉄筋コンクリート用棒鋼の製造を行っている。創業は1956年。棒鋼の生産能力は国内屈指で、マンションやオフィスビル、学校、病院など鉄筋コンクリートを使った建物に欠かせないメーカーの一社になっている。循環型社会への転換が叫ばれる中、「鉄の地産地消」のビジネスモデルも注目を集めている。

持続可能な社会に貢献する電気炉

鉄筋の製造方法には大きく2種類ある。高炉と電気炉だ。高炉はコークスで熱して鉄鉱石から鉄を抽出する。対して、電気炉は放電熱で鉄を溶かす。材料は鉄のスクラップだ。
 かつて日本はスクラップを輸入していたが、今は国内では消費しきれず余剰国に転じている。電気炉メーカーがなければ国中に鉄の廃材があふれてしまうといっても過言ではない。鞠子(まりこ)重孝社長も「リサイクル産業として、持続可能な社会には欠かせません」と語る。

同社の取り組みは、企業の環境対応の歴史と重なる。

2001年に鋼材を高効率で再生できる電気炉(ECOARC)を世界で初めて導入。それまで電炉の多くは工場などで発生する鉄含有率が高いスクラップを使っていたが、不純物が多い低価格スクラップも簡単な前処理をするだけで利用できるようになった。
 競争力が増しただけでなく、熱効率も高まった。使用電気量は従来設備に比べて20%削減できる。

鋼材を高効率で再生できる電気炉(ECOARC)

ECOARCでは排ガスの温度を安定させ無害化のために、液化天然ガス(LNG)を使用するなどの取り組みに着手している。また、工業用水を多く使うため、ろ過装置を通して循環水を利用することで、系外排水の削減に努めている。

左がろ過された循環水

「効率性を追求することが、エネルギーコストの低減になり、環境にも配慮することになりました」(鞠子社長)。

ただ、業界が置かれている状況はこの20年、楽観視できない状況が続いている。近年の棒鋼需要は新型コロナウイルスの影響を除いても、横ばいから下落傾向にある。
 こうした中、同社は2022年には70億円を投じて、新工場を稼働させ、各種鉄筋加工品がワンストップで対応できる体制を整えるなど付加価値の向上にも余念がない。「それでも、人口減少社会の日本国内で大きな需要の伸びは期待できません」(鞠子社長)。

地域に根差した企業として、常に進化

自社をこれからどうするか。このままでいいのか。

会社の将来を模索していた時に、出会ったのが、商工中金が提供する「ポジティブインパクトファイナンス(PIF)」だ。
 PIFはSDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)への企業の前向きな取り組みを評価し、支援する枠組みだ。環境負荷低減と企業の収益向上で社会面、環境面、経済面でKPI(重要業績評価指標)を設定することで積極的な取り組みを促す。リサイクル産業の岸和田製鋼とは親和性の高い枠組みともいえる。
 実際、同社の経営理念「鉄スクラップの可能性を追求する」「高品質の製品を安定して供給する」「安全は全ての作業に優先する」「全従業員で地球環境問題に取り組む」とPIFは考え方が重なる部分も大きい。「全く違和感なく取り組めました」(鞠子社長)。

PIFは毎年外部から評価を受けるのも特徴だ。
 「取り組みを外部から評価されることで、自社の方向性が間違っているのか間違っていないかを確認できます。私たちの事業は大きく変わりませんが、SDGsへの関心の高まりもあり、社会貢献していることに改めて気づかされました。対外的にも多くの人に自社の取り組みが認識してもらえて、社員の意欲向上にもつながります」。

設定したKPIは従来の取り組みの延長線上においた。「これまでの取り組みに明確な目標を数値化することで、より実効性を高めていければ」と期待を込める。
 具体的には再生可能エネルギー創出の取り組みとして各工場や事業所の屋上に太陽光発電システムを設置する。2025年度までに年間712MWhを発電し、226トンのCO2排出量の削減につなげる。鉄スクラップ資源の再生利用を加速し、リサイクル率は95%超(2016年度94.5%、2021年度95.6%)を維持する。環境面以外では現場作業には不可欠な資格習得率(クレーン免許70%以上、玉掛け90%以上)を維持する。

電気炉は原料の鉄スクラップを調達しやすく、需要地でもある都市近郊で展開する地場産業の性格が強い。人口減少社会に突入した今、地元に根差した経営がより重要になる。
 鞠子社長は「誰もが安心して暮らせる社会の実現は企業に課された大きな役割です。当社は特に地域に密着した企業ですからなおさらです。リサイクル技術を活用して環境保全に努めながら、地域と共生したいです」と意欲を示す。また、「そのためには、常に企業として進化し続けなければいけません。投資も必要になります。商工中金さんにはこれからもずっと支えていただきたいです」と期待を寄せる。

「金融面だけでない、踏み込んだサポートを」商工中金 堺支店 松岡稔明さん

電気炉業界は地産地消型のビジネスモデルといわれています。原材料となるスクラップを遠方から運ぶとコストがかかるなどの理由もあり、地域ごとに住み分けが進みました。これらからの人口減少社会では地域との密着がこれまで以上に欠かせません。環境対応や地域での雇用維持などSDGsの視点がより重要になっています。
 評価書を作成するに際しては、商工中金経済研究所や商工中金内でPIFをとりまとめている部署の力も借りながら、グループで一体となり、サポートしました。また、今回はシンジケートローン(協調融資)でしたので主幹事として他行にPIFの枠組みを説明するのにも力を注ぎました。
 金融機関が金融面だけをサポートする時代ではありません。ESG(環境・社会・ガバナンス)やCSR(企業の社会的責任)といった分野にも必要に応じて踏み込んでアドバイスできればと考えています。同社の成長は商工中金の成長でもあります。そうした意識を常に持ちながら、ともに歩みを進めていきたいです。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
 「ニュースイッチ×商工中金 フリーペーパー」でも紹介中。ダウンロードはこちら

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