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「匠の技」で最高品質…トヨタが世界の最高級市場に挑む「センチュリー」SUVの全容

「匠の技」で最高品質…トヨタが世界の最高級市場に挑む「センチュリー」SUVの全容

SUV型センチュリーの投入で「運転する楽しさ」も訴える

走行性能に磨き、初の海外販売視野

トヨタ自動車が、旗艦モデルの最高級車「センチュリー」を拡充する。6日にスポーツ多目的車(SUV)型の新型車を世界初披露し、現行のセダン型に加えラインアップ展開すると発表した。従来の運転手付きの車「ショーファーカー」としての位置付けに「運転する楽しさ」も加え、顧客層の拡大を図る。海外販売も検討しており、ブランドの浸透にも期待がかかる。初代の発売から56年。生まれ変わった姿のショーファーカーで世界の最高級車市場に挑む。(編集委員・政年佐貴恵)

新型センチュリーについて説明するトヨタのサイモン・ハンフリーズ取締役執行役員

「次の100年を見据えたセンチュリーだ」。6日、東京都内で会見したトヨタのサイモン・ハンフリーズ取締役執行役員は、こう力を込めた。披露したSUV型の新型センチュリーは、日本の伝統美をテーマとしたデザインを継承し、後席の快適性・利便性といったショーファーカーとしての特性を向上。加えて走行性能も高め、運転を楽しむ「ドライバーズカー」としての魅力も打ち出す。

パワートレーン(駆動装置)には、専用開発した3・5リットルV型6気筒エンジンを搭載したプラグインハイブリッドシステムを採用。車体の揺れなどを軽減する4輪操舵システムを初採用したほか、後席の加減速時の衝撃を緩和する専用機能も初搭載し、後席の快適性を高めた。ハンフリーズ取締役執行役員は「最も静粛性が高くリラックスでき、集中力や生産性を高めたい時に必要なものが手元にある」と、後席の快適性へのこだわりを見せる。

販売にはドアの開閉方式や外装色、シートなどを好みに応じて選べる「フルオーダーシステム」を導入する。同システムでトヨタの最上位スポーツ車ブランド「GRMN」版も提供可能だ。

従来の国内に加え、時期や地域は未定だが、海外での販売も検討する。国内では6日から受注を開始し、2023年内の発売を予定する。価格は2500万円から(消費税込み)。田原工場(愛知県田原市)にラインを新設して生産し、月30台の販売を目指す。現行のセダン型センチュリーも引き続き販売する。

皇室でも使われるなどして、国産最高級車としてのブランド力を高めてきたセンチュリー。その一方で、「若くてアグレッシブなエグゼクティブから『あまりに威厳があり過ぎ抵抗感がある』との声があると聞いていた」(中嶋裕樹副社長)。新型車は、そうした要望に応えた現行の顧客よりも相対的に若い、次世代向けのセンチュリーだ。

セダンと並行、台数規模維持

さらに「(クラウンやRAV4などと共通の)GA―Kプラットフォーム(車台)を使っているので、技術的にはどの地域でも出せる」(同)。海外の顧客の反応を見ながら、投入時期や地域を判断していく方針だ。

今回のセンチュリーのSUV型追加と海外参入の背景を読み解くに当たっては、大きく二つの観点がある。自動車市場の変化と事業の継続性だ。

この10年ほど、SUV市場は右肩上がりで成長してきた。送迎車市場でも従来主流だったセダンから、乗り降りしやすく車内の快適性も高いSUVやミニバンへと需要が変化。調査会社フォーイン(名古屋市千種区)日本・アジア調査グループの鈴木航平アナリストは「圧倒的な利便性とリセールバリューなどの観点もあり、ショーファーでもセダンからSUVやミニバンへのシフトが進むのは当然の流れ」と指摘する。

加えて10年代後半ごろから、ロールス・ロイスやマイバッハ、ベントレーなどの超高級ブランドが、続々とSUVを投入。それまでの「後席でくつろぎながら乗るショーファーカー」から進化し、「運転して楽しむプレミアムカー」の市場を広げた。

こうした背景を受け、純粋なセダン型のショーファー市場は縮小傾向にある。そもそも少量受注が前提で「需要の主流でないセダンを維持するのは、余力がなければ難しい」(自動車メーカー関係者)。実際に国内メーカーはほぼ撤退しており、手がけるのはトヨタのみ。トヨタにとってセンチュリーは同社を代表する旗艦車種で、簡単にやめられるものではない。ブランドを維持するには、新たな姿のセンチュリーが必要だった。

「ショーファーでも群戦略をやらないといけないんじゃないの?」―。

新型センチュリーの誕生は、豊田章男会長のこうした投げかけもきっかけになったという。トヨタは近年、クラウンといった高いブランド力を持つ代表車種で車型ラインアップを広げ、顧客層の拡大につなげる「群戦略」を進めている。ブランドを維持するには、収益を出せる一定の台数規模が必要だ、という考えがその根拠だ。

かつてはその対象にも見られていなかったミニバン「アルファード」にまでショーファーの領域は広がった。ショーファーカーも群として捉え、最高峰のセンチュリーも加えて選択肢を広げることで生き残りを図れる。

トヨタにとってセンチュリーと言えば、初代の開発にも加わり、発売後もユーザーの1人として実際に使い続けて進化をけん引してきた故・豊田章一郎名誉会長の印象が強い。特に豊田会長にとってセンチュリーは、あくまで「父でもある章一郎名誉会長の車」であり、自身が乗る車ではない、という認識だったようだ。しかし今回のSUV型の追加で「群戦略」という路線が明確になり、ブランドを継承する道筋が見えてきた。

センチュリーは今後、世界にどう受け入れられるのか。フォーインの鈴木アナリストは「信頼性の高いトヨタが出す歴史あるブランドということで、ストーリー性もありインパクトは高い」と評価する。ただ「欧州勢は同様のセグメントで新車投入を一巡させている」。競争環境は厳しい。全体的に工場稼働が高水準な中で、需要に応える供給体制を整えられるかも課題だ。

「匠の技」で高級感・最高品質

センチュリーは1967年当時、すでに日本を代表する自動車メーカーとなっていたトヨタが「国内最高のプレステージサルーン」を目指して発売した。

日産自動車の高級車「プレジデント」に対抗すべく、企業のトップや皇室関係者らVIP向けに安全と快適性を担保したモデルとして開発。その名前は、トヨタ自動車グループ創始者である豊田佐吉翁の生誕100年を記念して付けられた。

日本らしいデザインや工芸技術を採用し、センチュリー専用部品を多く使用して作り上げる。1台ずつ手作業するなど「匠の技」も取り入れ、高級感や最高品質を維持している。

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日刊工業新聞 2023年09月07日

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