伊藤忠・丸紅…大手商社が「水素・アンモニア」の用途開拓
商社大手が水素・燃料アンモニアの供給網の構築に向けた動きを広げている。伊藤忠商事はアンモニアの船舶燃料への活用に加え、フランスの工業ガス大手であるエア・リキードと商用車向け水素ステーションなどを展開。丸紅は国内火力発電でのアンモニア混焼のほか、アラブ首長国連邦(UAE)で水素由来の持続可能な航空燃料(SAF)の供給を進める。エネルギー密度が高く輸送しやすいアンモニアに加え、水素の用途開拓も進展をみせている。(編集委員・田中明夫)
伊藤忠は三井E&Sやドイツ産業エンジン大手マン・エナジー・ソリューションズ(MAN社)などとアンモニア燃料船を開発中で、MAN社が始めた単気筒エンジン試験をクリアすればプロジェクトが加速する。さらに、船舶燃料の重要拠点のシンガポールでアンモニア供給施設を開発するほか、同国やフランスの電力会社とグリーン水素由来のアンモニア供給網の構築も手がける。
伊藤忠の次世代エネルギー開発をけん引するのが、エネルギーや機械、金属の関連部門が参画する石井敬太社長直轄のタスクフォースだ。「社長から直接指示が出るので意思決定が早い」(井上大輔金属資源部門長代行)ことを生かし、エア・リキードとは水素ファンド出資を通じた協業に加えて、福島県に2024年に開所予定の商用車向け水素ステーションの他地域展開も検討する。「各部門が持つ顧客への強み」(猪股和彦エネルギー部門長代行)を束ねて新事業を推進する。
丸紅は海外から調達したアンモニアについて同社グループ内の石炭火力発電所での混焼利用を図り、脱炭素社会への移行期におけるエネルギーの安定供給との両立を目指す。エネルギー密度が低く輸送しにくい水素は「まずは地産地消型の事業を進める」(横田善明常務執行役員)方針。UAEで現地再生可能エネルギー大手マスダールなどと、ドイツのルフトハンザ航空にグリーン水素由来のSAFを供給するプロジェクトが進む。
住友商事は、資源大手の英リオティントが豪州で運営するアルミニウム原料の精製工場に水素製造プラントを建設する。燃料の天然ガスを水素で代替する実証事業のため25年までにバーナーへの水素供給を始める計画で、将来は豪州域外への水素輸出など多角的な事業展開も見据える。
ただ、次世代エネルギーの商用化は技術やコスト面で課題を抱える。伊藤忠は「温室効果ガスの削減、回収・利用、最終手段としての排出枠の購入が三位一体でないと具体的な案件に仕立てるのは一般的に難しい」(井上金属資源部門長代行)とみる。各社の案件の積み上げは最適なポートフォリオを模索する動きの現れでもあり、水素・アンモニアの開発競争は長期戦の様相を呈している。