新型コロナ薬を軸に…塩野義製薬が売上高8000億円へ描く未来図
塩野義製薬は新型コロナウイルス感染症やエイズウイルス(HIV)対応を中心に成長を加速する。新型コロナでは治療薬を欧米やアジア、低中所得国(LMICs)に広げ、ワクチンなどでのケアも図る。HIVでは長時間作用型製剤や注射剤などを拡販する。新型コロナとHIV以外も含めて2030年度までに医療用医薬品の新製品を10以上投入するなどで、30年度の売上高を22年度比87・5%増の8000億円を目指す。(大阪・市川哲寛)
新型コロナ治療薬は「日本での臨床試験や判断、承認が次のパンデミック(世界的大流行)への知見、プラスになる」(手代木功会長兼社長)とし、グローバル展開を急ぐ。製造販売承認を中国で申請準備中、韓国では申請中だ。東南アジアにも展開する方針。欧米では24年度以降に供給を始める計画で、米国の国立衛生研究所(NIH)の支援を受けるフェーズ3試験が進んでいる。
またLMICs向けではライセンス先の国際公衆衛生機関であるMPP(スイス)が中国、インド、ベトナム、ウクライナのジェネリック医薬品(後発薬)メーカー計7社とサブライセンス契約を結んだ。LMICs117カ国で製造、供給が可能になる。
新型コロナのワクチンは承認取得に向けて厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査中で、国内供給への準備を進める。オミクロン株対応や世界保健機関(WHO)の緊急使用リスト(EUL)掲載を目指し、価値を最大化する。
組み換えタンパクワクチンの生産体制を構築するほか、インフルエンザワクチンへの展開、経鼻ワクチンやユニバーサルワクチンの開発などでビジネス基盤を整備する。
一方、HIVでは治験参加者の約9割が毎日服用の経口剤より注射剤での治療を好んだ上、「経口剤から注射剤にすることで利便性が高まる」(手代木会長兼社長)と強調する。また、予防薬を米国で拡販するのに加えて欧州では23年後半に承認される予定で市場を開拓する。さらに超長時間作用型製剤の併用候補薬はフェーズ2b試験を始める予定で、次世代パイプラインの開発も進めている。
ほかにもRSウイルスや侵襲性アスペルギルス症などの感染症、注意欠陥多動性障害(ADHD)や脆弱(ぜいじゃく)X症候群、変形性膝関節症などの精神・神経、疼痛(とうつう)領域での新製品開発を進める。また肥満症や固形がん、急性期脳梗塞、栄養障害型表皮水疱(すいほう)症などの疾患向け医薬品も「成長ドライバーとして重要」(同)として開発に注力する。