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実施わずか10人に1人…浸透道半ば「副業・兼業」 人手不足の切り札になるか

副業・兼業への社会的な関心が高まっている。現状ではまだ浸透しているとは言い難く、実際に実施している労働者は約13%にとどまる。労働者にとっては多様な働き方の選択肢の一つとなり、企業にとっても労働者の知識やスキルの向上により、人材育成や生産性の向上につながる。少子高齢化が進展する中で、人手不足の解消の切り札となる可能性も秘めている。(幕井梅芳)

多様な働き方の広がりや生産性の向上、人手不足といったさまざまな社会課題がある中、解決策の一つとして、副業・兼業が有力な選択肢としてみられている。副業・兼業を推進することは、労働者と企業双方にとって、メリットが期待できる。労働者にとっては、新たなスキルや経験の獲得、起業へのチャレンジ、セカンドキャリアの準備、収入の増加が期待できる。また、企業側にとっても、労働者が社内では得られない知識やスキルを習得することや、優秀な人材を獲得できることなどが挙げられる。

社会全体からみても、少子高齢化に伴う労働力人口の不足が予測されている中、高度な技能を持つ人材を1社で囲い込むのではなく、複数の企業で活躍してもらうことができれば、労働供給対策の一つにつながる。

政府も副業・兼業を後押しする。「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」では、労働者の多様なキャリア形成や円滑な労働移動の手段として副業・兼業の促進を打ち出している。

だが、現状は浸透までには至っていない。内閣府が21年秋に実施した「第4回新型コロナウイルス感染症の影響における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、「副業を実施している」と回答した労働者は13・3%だった。副業・兼業を明確に認めている企業の割合は26・7%と、約4分の1に過ぎない。

また、パーソル総合研究所(東京都港区)の「第二回副業の実態・意識に関する定量調査」によれば、副業を「現在している」人は9・3%。実際に副業を実施している人はおよそ10人に1人程度にとどまる。現在は副業していないものの、副業したいと思っている人は40・2%で、副業の希望と実態にはギャップがある。

枠超えたマッチング重要 異分野交流でイノベ効果

副業・兼業を進めるためにはどうすればよいのか。日本総合研究所の小島明子スペシャリストは「副業・兼業の推進は地域、業種、業態、規模を超えたマッチングをいかに進めていくかがポイント」と指摘する。オンラインの普及により、都市部と地方との距離は関係なく、やりとりできる。地方の自治体では民間の経験者の知見や経験を生かし、行政の仕事に取り組む例なども出てきた。

新生銀行は18年4月に銀行業界でいち早く副業を解禁した。例えば、市場資金部門次長は週末に渋谷や浅草などの路上に立ち、大道芸人として鍵盤ハーモニカを手にパフォーマンスを披露する。ほかに、ダンス講師、観光ガイドなどさまざまな分野で同行員が活躍する。異分野で経験を積み、自由な発想の人材を育てるのが狙いだ。

ロート製薬は16年4月に正社員の副業を解禁する制度「社外チャレンジワーク制度」を導入した。ビール造りやカフェ運営など多彩な分野で社員が活躍する。社内の異なる部署を掛け持ちできる制度も導入しており、さまざまな経験を通じて、社員の成長を後押しする。

小島スペシャリストは「異分野、異業種の人が交流することで、イノベーション創出効果が生まれる」と提案する。地域活性化に関して同じメンバーで世代も同じような人が企画すると、どうしてもマンネリな企画になりがちだ。大企業のシニアや中小の若手女性、外国人などがメンバーに入り企画会議を開けば、新たな展開を生む可能性もある。

中小企業は求める職種も幅広い。日ごろ活躍できる場が少ないと感じている大企業に務める人材について、マッチング次第で新たな活躍の場を提供できる可能性もある。副業・兼業を通して、セカンドキャリアの準備を行いたい中高年や、副業・兼業をきっかけに人材を確保したいと考える企業は増えていく。

副業・兼業を進める上で、労務管理が課題の一つとなる。まず、労働災害保険(労災保険)が挙げられる。仮に一つ目の就業先から二つ目の就業先に移る時に災害や事故に遭った場合、労災保険給付の対象となり、終点(二つ目の就業先)で保険処理を行うことになる。2点目は雇用保険。適用事業所の事業主は、雇用する労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上である者など)について、雇用保険の加入手続きが必要だ。さらに、事業主は副業・兼業で健康を害することがないよう、労働者の業務量や健康管理への配慮も必要になる。

日刊工業新聞 2023年05月08日

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