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安全審査“事実上”合格…高速実験炉「常陽」、来年度再稼働へ

安全審査“事実上”合格…高速実験炉「常陽」、来年度再稼働へ

政府は、高速炉を次世代原発の一つとして位置付ける(常陽の炉心上部)

日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)が2024年度末にも運転を再開する。炉心でのトラブルが原因で15年間以上運転を停止していたが、この5月に安全審査に事実上合格した。常陽は日本で唯一の高速実験炉であり、次世代原子力発電の実現に向け一歩前進する。また、がん治療に効果的な医療用放射性同位体(RI)の開発など産業利用でも注目される。海外で高速炉の開発が相次ぎ日本の技術が求められる中、常陽が動き出す意義は大きい。(飯田真美子)

日本で唯一の高速実験炉「常陽」

常陽は1977年に初臨界を達成し、約7万1000時間運転した実績がある。だが2007年に炉心で照射試験用の実験装置と、燃料棒の交換装置が衝突して破損する事故が発生し、運転を停止した。14年に復旧作業が完了し、17年に原子力規制委員会に安全審査を申請した。

11年に起こった東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故の影響で、火災や大事故を想定した新しい規制基準が導入された。原子力規制委は常陽の審査で、この新規制基準への適合評価も実施し、23年5月に運転再開に向け事実上の「合格」を出した。今後、パブリックコメントなどを経て、正式に合格となる見通し。原子力機構は24年度末の運転再開を目指す。

高速炉はエネルギーの高い高速中性子を使ってプルトニウムなどを、一般的な原子力発電所(軽水炉)と比べ効率的に燃やす。

政府は高速炉を次世代原発の一つとして位置付ける。原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する「核燃料サイクル」の確立に向け、プルトニウムなどを効率良く燃やせる高速炉は重要な役割を担うからだ。核燃料サイクルを確立できれば、日本のエネルギー安全保障の助けにもなる。

日本では高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)も開発されたが、相次ぐトラブルの影響で16年に廃炉が決定。原子炉から核燃料を取り出す作業が終わり、23年度から第2段階となるナトリウムの引き出しに移行している。常陽は日本で唯一“現役”の高速炉だ。

高速炉は軽水炉と異なり、冷却材に液体ナトリウムを使う。液体ナトリウムは水と激しく反応して火災を起こす可能性があり、扱い方を間違えると爆発する危険性がある。

常陽のナトリウム循環用ポンプ

常陽では液体ナトリウムが漏れた時に1カ所にたまらないよう配管を複雑に構築した。1977年に運転を始めてから液体ナトリウムの事故は一度もない。

原子力機構高速実験炉部の関根隆部長は「取り扱いに注意すれば(事故などの)リスクは最小化できる。軽水炉のように水で冷却すると配管が傷みやすいが、金属の液体ナトリウムだと腐食しにくいという利点もある」と説明。複雑な配管を利用して液体ナトリウムを自然循環させて炉心を冷却することにも成功している。

海外、25―40年実用化

海外では高速炉の研究開発が進んでおり、25―40年ごろにかけて実用化される見通しだ。ロシアでは15年に実証炉が稼働し、中国は23年に実証炉が初臨界する予定。両国とも30年代には商用炉の運転を開始する計画だ。

米国やカナダなどは20年代後半にも実証炉の運転を始める見込み。米テラパワーは、原子力機構や三菱重工業などとナトリウム冷却高速炉技術に関する覚書を22年1月に締結した。テラパワーは高速炉の実用化を目指しており、クリス・レベスク社長兼最高経営責任者(CEO)は「日本の専門性の高い技術提供に感謝したい。連携で得られる知見を日本で高速炉を新たに建設する時に役立ててほしい」とコメントした。常陽の再稼働は日米の高速炉開発を後押しする。

常陽の新規制基準適合審査では原子力機構が、多量の放射性物質などが放出するリスクのある事象を81例抽出した。さらに、その中から影響や頻度、包絡性などを考慮して特に重要な15例について対策の有効性評価を記載した。

具体的には、扱いが難しい液体ナトリウムのポンプが止まり原子炉の停止にも失敗したケース、液体ナトリウムの配管が複数破損して漏えいし炉心が露出したケースなどを挙げた。液体ナトリウムの火災に関しては、配管の耐震補強や漏えい検出器の設置といった対策を打ち出した。

常陽のナトリウム循環用ポンプと冷却用の配管

原子力規制委の山中伸介委員長は「原子炉が大きく、危険な液体ナトリウムを使うなどの点から長期間の審査になった。かなり慎重に審査し、ようやく案をまとめられた」と振り返った。

現在、原子力機構は本格工事を前に一部を先行実施している。新規制基準への対応として、原子炉を監視したり停止したりするシステムの多重化や事故発生時の炉心・燃料の冷却などの機能強化だ。さらに大型飛行機の衝突や大規模な自然災害が発生した場合の火災などに対する対策として、放水設備やアルゴンガスを送気して液体ナトリウムの燃焼を抑える設備を設置する。

がん治療に応用 産業利用にも期待

常陽が取り扱う高速中性子はがん治療に応用できる。高速中性子を原子核に当てて、その原子核の中の中性子を弾き出す反応により、がん治療に使う医療用放射性同位体(RI)のアクチニウム225を作れる。

この治療では、アクチニウム225とがんに特異的に集まる薬剤を組み合わせて体内に投与し、アクチニウム225から放たれるα線をがん細胞に当てて死滅させる。

治療効果は高いが、現在使われているアクチニウム225は核兵器開発で生成されたウラン233からできており、得られる量は世界で年3000人分ほどしかない。関根部長は「常陽が再稼働すれば、ボールペンのキャップくらいの大きさの燃料から45日間で3000人分のアクチニウム225が作れる」と強調する。基盤技術を確立した後に製薬会社などと共同研究し、社会実装を進めたい考え。国産RI製造の基盤の一つになると期待される。

また常陽は、高速中性子だけでなくエネルギーの低い熱中性子なも取り扱える。熱中性子を活用することで、脳や心臓などの核医学検査用の放射性同位元素を作れる。

高速中性子と熱中性子は医療分野以外でも活躍する。原子力機構は23年度から、核のゴミなどの有害な原子が無害化するまでの期間を短縮する研究を強化する。常陽はこの研究にも役立つとみられる。原子力機構の小口正範理事長は「(燃料の使用後まで含め)原子力の安全性を高め、(原発が)持続可能エネルギーに分類されるよう取り組む」と話す。

ほかにも常陽は新材料の試験などにも応用できる。原子力機構は海外研究者の受け入れを増やすほか、大学や高専、企業などとも連携し、多様な分野の研究者が利用できるようにする。

日刊工業新聞 2023年06月19日

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