研究者が語る産学連携。モノづくり中小企業の「宝」探す
長岡技術科学大学教授・高橋勉氏(流体工学)
「『技学』の力で競争力発揮」
長岡技術科学大学は実践的な能力を備えた技術者育成が設立の理念だけに産業界との関係は深い。私自身、企業の開発現場に飛び込むことを心がけている。
ヨネックスと共同開発した高速サーブを可能にするテニスラケットは、地元にある国際的な企業が本学の力を使ってくれないのはもったいないと思い、開発関係者を集めてもらいプレゼンテーションをしたことが発端。偏光高速度カメラを共同開発したフォトロンは東京の会社だが、ユニークな技術が目に留まり、やはりこちらから共同開発を提案した。
最先端の技術ばかりを扱っているわけではない。いま進めている研究は、大手企業とが5社、中小とは8社。ある工程の生産がうまくいかないなど日常的な相談から開発に発展するケースも少なくない。
経験に裏付けられた技術やノウハウである「暗黙知」―。ここにサイエンスが加わることで技術開発の視界が一気に広がることがある。これが「技学」であり、それによって日本のモノづくりは競争力を発揮してきた。
多くのイノベーションを生み出すには、大学はより多くの暗黙知に触れる機会を作り出さなければならない。企業にとっては、競争力の源泉である技術をオープンにすることに慎重なのは当然。この大学なら安心して技術を出せるとの信頼関係が構築されて初めて、我々は見たこともないような中小企業の「宝」に触れることができる。
千葉大学准教授・中村亮一氏(手術ロボや手術技能評価)
「医療現場のニーズ理解を」
産業としての医療のすそ野は広く、とりわけ私が携わる外科医療は、機器開発へのニーズが強い。内視鏡外科手術の訓練機器が企業との共同開発から誕生したのも、医療現場が抱える課題を企業にぶつけたことが発端だ。
患者への負担が少ない内視鏡手術や腹腔鏡下手術が増える一方で、医師側には、習熟のための訓練や負担軽減が必要となっていることが背景にある。高価な臨床用ではなく、研修医でも購入可能で気軽に使える内視鏡外科の練習用手術器具(持針器)がないものか。
我々の声に応えてくれた企業は、医療機器の製造販売経験はなかったが、試行錯誤を重ね期待に応えてくれた。6月には別の企業と共同開発した「ウエアラブルチェア」を発売予定。手術中の医師の長時間の中腰姿勢をサポートするものだ。
これらは、法律で規制される「医療機器」ではないので、開発後の市場投入は容易だ。だが、ポイントは実際の手術で使用する機器とかけ離れたものでは困るという点だ。
練習用持針器の開発企業も、当初はマジックハンドのような簡易な構造をイメージしていたようだが、我々が繰り返したのは「たとえ練習用でも臨床用と同等の品質を実現しないと使ってもらえない」点だ。医療現場の特殊性を理解してもらってからは早かった。この企業は、積極的に医療関係の学会にも参加し事業化に成功している。
(文=神崎明子)
日刊工業新聞2016年2月18日深層断面