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解決の糸口見出せぬ政府との対立…日本学術会議が発したメッセージ

解決の糸口見出せぬ政府との対立…日本学術会議が発したメッセージ

27日に開催されたCSTIでは日本学術会議の法改正の見送り経緯についての報告があった

日本学術会議は27日、政府の法改正見送りを受けて“開かれた協議の場”を求めるメッセージを発した。これに先立ち同日開かれた内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の政策討議では協議への道筋は示されなかった。政府では民営化を含めた学術会議の独立性担保の検討が進んでいる。法改正が見送られたことで決裂は一時的に回避されたものの、政府と学術会議の対立は解決の糸口が見出せていない。(小寺貴之)

「学術会議に丁寧に説明したものの理解は得られなかった」―。内閣府大臣官房総合政策推進室の笹川武室長は法改正見送りについて報告した。笹川室長は「透明性が担保されないのではあれば、国の機関にとどまるのは難しいとの意見もある」と言葉を添えた。

政府が求めた選考諮問委員会では、会員選考の透明性を担保するためと説明されている。学術会議の選考担当者は「開示可能な情報はすべて開示している」と説明する。選考過程の個人の採点結果や落選者などの個人情報に関わる情報は開示できない。選考方針や候補者に求める資質、選考日程など開示可能な情報は公開済みだ。これ以上、透明性を高めることは難しいという。

見送られた法改正案では選考諮問委員会を設けることになっていた。諮問委員会にCSTI議員が加わるため、諮問の形で選考過程を共有可能になる。これが選考への介入の懸念があると学術会議に拒否された。政府に対する透明性を高めても、必ずしも社会に向けた透明性が増す訳ではない。

透明性の議論は一度棚上げされ、政府は学術会議の独立へと検討を進める。ただ民営化で独立性が改善するとは限らない。学術会議も包括的で抜本的な見直しの議論を受ける構えだ。学術会議の梶田隆章会長は「信頼に基づいた議論が必要だ。開かれた協議の場をどう作るのかも議論しなければならない」と議論を求める。

日本は脱炭素や生成系人工知能(AI)の規制など、国の科学技術外交の重要な局面にある。政府と学術会議は互いの信頼回復の過程を社会に示すことが求められる。

日刊工業新聞 2023年04月28日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
この問題をどう解くかと考えると、選考過程の透明性や組織の独立性の最適解をどう設計するかにあると思います。個人情報保護など法令を遵守する限り、選考委員の頭の中を覗かない限り、完璧な透明性はあり得ません。国に限らず、どこかから活動資金を得る限り、資金源からの独立性は完璧にはなりません。どちらも信頼があれば問題になりません。透明性も独立性も建て前で、政府と学術会議の相互不信問題になっているなら、学術会議と議員さんの間で官僚さんを使って伝言ゲームをしても埓が明きません。だったら開かれた場で協議しようと提案されています。政府が信頼できない学術会議、学術会議が信頼できない政府、どちらも信頼して大丈夫なのかと国際社会は考えてしまうかもしれません。両者でお互いに信頼たる組織になっていくプロセスを示してもらわないと、漠とした不安だけが残ります。一方で再発防止を考えると、これを機に最適解を求めてもいいのかもしれません。透明性が担保できないなら国の機関には留まれない、というのなら、国の機関に必要な選考透明性を定義し、透明性のレベルを作り、さまざまな検討会に適用可能なのか検証してもいいように思います。独立性も活動資金を政府や産業界、一般社会からの寄付など、さまざまなセクターから集めて、どれかが欠けても経営は揺らがないようにしないと、学術会議の求める独立性は担保できないように思います。いまの学術会議の体力では寄付集めは厳しいと言われています。すると独立性もレベルを設定し、独立性向上ロードマップを作って、段階的に高めていくことになるのかもしれません。手弁当のコストミニマムに陥っている組織が、社会に資金面からも支持される組織に変わるなら、学術が社会に定着したといえるでしょう。現状、政治問題になっていて、政治問題である限りいい答えは出てこないように思います。建て前に過ぎない透明性と独立性をまじめに解いてみたら再発防止にはなるかもしれません。

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