ラボラトリーオートメーションが研究の競争原理を覆す
材料や化学、生命科学などの研究分野でデータ駆動型の研究を進めると、必ず実験数の壁が立ちはだかる。実験のコストが高く、データを大量に集められない問題がある。従来の実験系研究者は少ない実験数で本質を突くことを競争力としてきた。そこでラボラトリーオートメーション(研究の自動化)が注目されている。重要なデータをケタ違いに生産できれば競争原理が覆える。
「実験データが数千を超えると一つひとつのデータを見ていられなくなる。それでも回るシステムが重要」と、物質・材料研究機構の松田翔一主任研究員は説明する。電池の電解液を高速探索する実験ロボットを開発した。1号機は空気電池専用マシンで、1日1000サンプルを測定できる。
2号機は電気化学実験全般をカバーした。水の電気分解や電池で起こる反応を実験できる。インピーダンス測定やLSV測定などで電極表面で起こる現象を探索できる。
3号機ではラミネートセルの製造を自動化した。人手で作ると1日6セルだが、機械化で1日80セルを製造できるようにした。松田主任研究員は「電池メーカーの生産ラインよりは小規模で柔軟。品質を一定に保てるため、質の高いデータを大量に得られる」と説明する。このデータを人工知能(AI)技術で解析し、次の実験条件を絞り込んだり、複数の因子の連関を分析する。
この自動実験装置が生産するデータはデータプラットフォーム(基盤)に格納される。そのためのヒューマンエラーを防ぐ仕組みも重要だ。例えばラミネートセルは2次元コード「QRコード」が自動で印字される。人が製造条件を転記する必要はない。
こうした自動化をスマートに行うのは難しい。研究全体を俯瞰(ふかん)して、データ生産量が増えると研究の流れを変える実験に集中投資する必要がある。これは規模ありきではない。1カ月に数十個しか得られないデータが数百個に増えるだけでも効果は大きい。
物材機構の宝野和博理事長は「材料分野がAIを取り込んだ際に活躍したのは若手だった」と振り返る。2016年の段階で、まだ海の物とも山の物とも分からないAI技術に果敢に挑戦したのは若手たちだった。この方法論がマテリアルズインフォマティクス(MI)として業界に定着し、次はラボラトリーオートメーションがフロンティアとなっている。
AIと比べ自動化技術はコストが高い。研究全体を俯瞰し、流れを変える力も必要だ。次に挑戦すべきはベテランかもしれない。