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量子ベンチャーの信用不安で業界崩壊!?…重要性増す日本の量子研究

量子ベンチャーの信用不安で業界崩壊!?…重要性増す日本の量子研究

量子ビット集積回路チップを手に持つ中村理研量子コンピュータ研究センター長と国産量子コンピューター初号機

理化学研究所の国産量子コンピューターの初号機が稼働した。日本では政府による集中投資と富士通やベンチャーなどの協力を組み合わせ、初号機稼働にこぎ着けた。内閣府は経済安全保障の観点から重要部品の特定や育成を進める。民間主体の海外勢は、ベンチャー市場の動揺で岐路にある。公的資金に支えられた日本の量子研究の重要性が増している。(小寺貴之)

「北欧の200億円以上集めたベンチャーがほぼ動いていない。量子ベンチャーへの信用不安が連鎖し業界が崩壊するのではないか」―。国産初号機のお披露目式が終了し政治家や政府高官を送り出した後、量子研究の重鎮がこうこぼした。欧米の量子ベンチャーの株価低迷を受けての発言だ。期待先行で投資を集めたベンチャーに試練の時がきている。

日本では文部科学省と理化学研究所、産業界がスクラムを組んで国産初号機を稼働させた。演算に用いる量子ビットは64個。この内、一つは量子ビットの不良、二つは量子ビット間の干渉、八つは読み出し装置の不具合で動かない。

当初の稼働は53個に留まり、量子ビットを維持できる時間も数十マイクロ秒(マイクロは100万分の1)と長くはない。この原因を解明して改良し、全量子ビットの長時間稼働を目指して研究を進める。理研量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長は「我々は不都合なことも正直に話す」と説明する。これが産学官の間の信頼につながっている。

量子コンピューターはまだまだ未熟な技術だ。現在の性能よりも、これを改善していく過程が重要になる。量子ビットが不安定化する原理を解明してデバイス設計に反映し、量子ビットの歩留まりを上げる。こうした積み重ねは100万量子ビットが必要とされる誤り耐性量子コンピューター(FTQC)の実現に欠かせない。学術界での失敗と探究は産業界の血肉になる。

内閣府では基礎研究の段階から重要部品の特定や事業者への支援が検討されている。星野剛士内閣府副大臣は「量子技術は経済安全保障上の重要技術。政策資源を投入して育てていく」と説明する。成熟した技術は囲い込みが難しいが、未熟な量子コンピューターは重要部品を丸ごと押さえるチャンスがある。

国産初号機の制御装置を開発した大阪大学発ベンチャー、キュエル(東京都八王子市)の伊藤陽介社長は「装置や電子回路の小型化のためにASIC(特定用途向けIC)開発が必要。半導体メーカーの参入が望まれる」と説明する。少量でも先端プロセスでASICを作れる事業者なら開発段階からデファクト(事実上の標準)を握れる可能性がある。

国としても量子コンピューターの大規模化に向けて、大型投資をどこかで決断する必要がある。このタイミングは2020年代後半と見込まれる。井出庸生文科副大臣は「官と民で効率を最大化する投資が理想。そのためにも国民や社会の理解は欠かせない。政治家の中にも志ある人間がもっと増えなければならない」という。国産初号機の稼働はそのスタートになる。

日刊工業新聞 2023年03月29日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
20年代後半にくるであろう事業化投資の波はゲート式ではないのだと思います。きっと量子アニーリングマシンで、ISOに従うと量子コンピューターとは呼べなくなっていると思います。量子計算機が本当に夢の計算機になるかどうか現状ではわかりません。古典コンピューターの産業で日本が負けている状況で量子コンピューターの技術だけできても産業競争力に変えられるのか、これまたわかりません。ただ逆転を目指すなら量子コンピューターは外せないし、逆転するなら量子コンピューターだけでも不十分です。量子コンピューターは手段であって目的ではありません。本気でやるなら量子も古典もAIもITも20年代後半なんて待たずに投資しないといけないように思います。できなければ20年代後半に人材が海を渡ることになると思います。

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