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日本発「ペッパー+ワトソン」 仕事の現場にいよいよ現る

日本語対応のエンジンが完成。「人型ロボット」もっと身近に
 人型ロボットの技術進化が加速している。注目はソフトバンクの「ペッパー」と、新概念のコグニティブ(認知)コンピューティングを具現化した米IBMの「ワトソン」の組み合わせだ。両技術の合体により、ペッパーは、学び・考えるなどの”知能“が向上する。その実現に向けて、IBMとソフトバンクの両社が協業したのは約1年前。懸案だった日本語対応のエンジンがこのほど完成し、いよいよ本格登板となる。

IBMが期待を寄せるインターフェースの潜在能力


 米ラスベガスで年初に開かれた家電見本市「CES」で、IBMとソフトバンクグループは共同で、「ペッパー用ワトソン」の開発計画を打ち上げた。「ペッパー+ワトソン」の協業は、すでに国内では日本語化を通して先行していたため、大きなニュースにならなかった。ただ、開発を表明した新製品のターゲットは世界市場に他ならず、日本での協業の枠組みがグローバルに発展した形。「ヒューマンインターフェースとしての人型ロボットの役割」に、IBMが大いに期待しているのは明らかだ。

 IBMにとって、ぺッパーとは「ワトソン対応のアプリケーション(応用ソフト)が動く端末の一つ」。すなわち、スマートフォンやパソコンなどと変わらない。ただ、インターフェースとしての潜在能力は別格で、IBMはそこに可能性を見いだしている。

 ワトソンは2011年に質疑応答システムとして登場。米国の人気クイズ番組「ジョパティ」で、全米屈指の王者と早押しクイズで戦って勝利した。当時のワトソンは機械学習や自然言語処理など五つの技術が中核となっていた。

 その後、ワトソンは技術革新を続け、「話し言語を理解し、学習・予測するシステム」として実用化に至った。技術面では人工知能(AI)なども含め50の機能で構成。五つあった中核技術は28個に拡張され、IBMのクラウドサービス上で提供。応用ソフトインターフェース(API)として公開し、パートナー企業が開発協業できるようになっている。

協力企業400社


 英語版はすでにパートナーが世界で400社を超えている。対応言語は英語以外に、日本語、ポルトガル語、スペイン語と続く。

 国内は日本IBMによる直販と、ソフトバンクを通した間接販売の二本立て。金融機関など大手企業向けはIBMが“BツーB(企業間)”を担当、ソフトバンクは中堅・中小企業向けを中心に主に“BツーC(対消費者)”に力を注ぐ。特に対消費者の場合、「ペッパー+ワトソン」を汎用基盤として、ロボットアプリ市場をどう育てていくかがカギとなる

 ワトソンの用途はヘルスケアやコールセンターなど多種多様。IBMは「ワトソンIoTクラウド」を打ち出すなど、モノづくり領域でのワトソンの活用にも意欲的だ。日本IBMの吉崎敏文執行役員は「分析のやり方に一定のアルゴリズムや機械学習のノウハウを入れるのがワトソンだ」と語る。

 例えば工場などの生産設備にトラブルが生じたとき―。現場の作業者が「どうしたらよいか」と声をかければ、ワトソンが何をすべきかを指示してくれる。人型ロボットだけでなく、産業用ロボットでもワトソンの活躍が見込まれる。

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日刊工業新聞2016年2月17日「深層断面」より抜粋
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
人型や動物型など擬人性を感じさせるロボットは、優れたインターフェースとして大きなポテンシャルを持つ。これがワトソンとつながれば、できることや利用方法は格段に増える。ただ記事中にある受付やコールセンターといった用途では、ペッパーやワトソンである必要性が薄い気もする。しかもペッパーは移動したり作業したりするのは苦手だ。「そこまで動けないけど知能の高い人型ロボット」ならではの使い道は何か、数々のアプリ開発と平行して試用しながら見極めていくことになるのだろう。個人的にはもっと賢くなったシャープのロボホンが職場の机にいて、アドバイザーみたいに働いてくれたらいいな、と思う。ロボホンは持ち運べるし。・・・ペッパー、ごめんなさい。

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