日本車両製造が鉄道車両ブランドで攻勢、“新たな切り口”は潮流変えるか
日本車両製造が保守のしやすさを前面に押し出した鉄道車両ブランドで攻勢をかける。2021年に生産開始した同社初のブランド「N―QUALIS(Nクオリス)」に、各種設備の稼働を監視して故障を予知する状態監視保全の仕組みを導入する。故障する前に修理し、車両の稼働率を高められるのが利点だ。これまで鉄道車両メーカー各社は製法や部品を共通化するブランド化によって、価格競争力を磨いてしのぎを削ってきた。保守のしやすさという新たな切り口が鉄道車両市場の潮流を変えそうだ。(名古屋・永原尚大)
Nクオリスは、日本車両製造が2000年代に確立した製法「日車式ブロック工法」を基に作った初のブランド。進化させた車両構造と台車の「NS台車」、新たに開発した状態監視技術の3要素で構成する。「保守を省力化するニーズが高まっている」(同社)背景を踏まえて開発した技術を盛り込んだ。
車両ではレーザー溶接を取り入れ、鋼板のつなぎ目に取り付ける防水部材のシール材を大幅に減らした。鉄道会社は8年周期で実施する「全般検査」でシール材を取り換えるが「シール材が減ることで、作業時間が大幅に減る」(同社)という。外観の見栄えも良くなった。
NS台車ではプレスによる一体成形を活用し、耐久力を下げる原因の溶接を減らした。溶接の多さを示す溶接線長は従来台車と比べて4割減だ。「溶接に異常がないか調べる非破壊検査が減る」(同)利点がある。
保守のしやすさを高めた車両と台車に取り入れたのが、状態監視保全の仕組みだ。鉄道会社は通常、定期的な検査による保全を基本としているが、センシングにより常時、状態を把握しておく状態監視保全を取り入れ始めている。
日本車両は台車の異常な振動を検知する技術を提供していたが、23年から車両の各種設備に幅を広げた。鉄道会社は90日周期でブレーキやモーターなどの不具合を調べて整備するが、それよりも短い周期で検査することで異常を早期発見できるようになる。
日本車両が保守のしやすさを打ち出す背景には、鉄道会社の人手不足がある。JR東海やJR東日本は鉄道の運行に関わる人員を削減する方針だ。デジタル技術の活用などを通じた効率化で「労働力不足に対応できる体制をつくる」(JR東海の金子慎社長)状況にある。
運休や遅延などの輸送障害を抑制する効果もある。国土交通省によると、事故や災害を除いた車両故障の割合は673件で5割を占める(21年度、新幹線除く)。故障を未然に防ぐため、鉄道各社は状態監視保全の導入や検討を進めている。
日立製作所や川崎車両などの鉄道車両メーカー各社は構造や部品を共通化し、少量多品種な鉄道車両を効率的に生産する技術に注力してきた。だが、人手不足の深刻化で鉄道会社の運用も考慮した設計が必要となってきている。日本車両が打ち出した保守のしやすさという切り口は、各社の競争路線を切り替える可能性がある。