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強い信念のもと先手を打つ 鋳造関連メーカーが挑戦する環境への取り組み

経済的価値を生み出しながら社会的責任をいかに果たすかは、経営者にとって大きな課題になっている。近年は大企業を中心にサステナビリティの取組みが広がっており、ステークホルダーとの関係も踏まえ、中小企業においても環境負荷低減など環境整備が求められつつある。

こうした企業のプラスの貢献をもたらす変化や影響=ポジティブ・インパクトに注目した商工中金の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」は、SDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)への企業の取組みを評価し、サポートする枠組みだ。PIFの活用は持続可能な社会に貢献したいとの想いを持った中小企業にとって、自社改革の大きな手助けになる可能性を秘めている。

環境対応の原動力は危機感

愛知県西三河地区に本社を構える榊原工業。愛知県西尾と豊田をはじめ、富山県にも工場を持つ鋳造関連メーカーだ。同社は鋳造品ではなく、鋳造品の中に必要な空洞を作るための砂型である「中子」を手掛ける。各工場は多彩な中子製造機を保有。大型の中子から複雑形状の中子までさまざまな製品をつくるノウハウと技術を持ち、取引先の多様な要望に応えている。

大型の中子から複雑形状の中子まで、さまざまな製品をつくるノウハウと技術を持つ

「私たちは今3200種類の中子型を保有しています。そのすべての製品に“CO2排出タグ”を付け、納品先に結果を報告しています。つまり『私たちは製品とともに、お客さまに対してこれだけのCO2を一緒に納品してしまっている』と現状をお伝えしているわけです。」

榊原社長の原動力は危機感だ。「環境対策は中小企業でも義務だからやるのではなく、自分たちで取り組むことが当たり前の時代が到来しつつあります。いいものを安くつくるのは当たり前の時代。他に何ができるかを考えないと生き残れない。効果が表れるまでの時間がかかるだけに取組みは急務だと考えています」。

地域から信頼される企業に

「お客様・地域に信頼される企業を目指すことを考えた時、そこにすべてがある」。
 先代社長の口癖だった同社の経営理念を、榊原社長は忘れたことはない。
 自らの父親でもあった先代は亡くなる直前に「地域から信頼されるために何がリスクか考えなさい」と言葉を託した。

「自分の子どもが入社したいと思える会社づくり」をテーマに、ダイバーシティ経営を目指す

榊原社長が今、自社の大きなリスクと考えるのは環境と安全だ。
 大企業のみならず中小企業も「環境」の重要性を唱える時代になったが取組みには温度差があるのが現状だ。

榊原社長の本気度が垣間見えるのがSBT推進会議だ。
 同社は企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定である「SBT」認定を2021年1月に取得。2030年に温室効果ガスの18年比50.4%削減を目標に定めた。すでに目標に向けて、一部工場内の照明のLED切り替えや太陽光発電設備の設置、CO2フリー電力導入を一部拠点で始めている。

月一回開く推進会議は目標達成の具体策を協議する場だ。社員のみならず、金融機関、取引先、時には同業者も参加している。
 「中小企業の取組みの多くは社長の『思い』で終わりがちです。推進会議は私の『思い』を会社の『仕組み』にしていく場です。実際、取組み当初は社内の温度は低く、「なんでこんなことをするのだろう」という雰囲気でした。ただ、推進会議を続けているうちに社内の取組みが社外で評判になり、社外で話題になるにつれて、社員の目の色も少しずつ変わってきたと感じました。」

いかに全員が環境対策を自分事と考えるようになるか。榊原社長は「仕組みづくり」のための仕掛けを多く用意している。
 例えば、全ての社内会議では終了5分前に決まりごとがある。会議の中でSDGsにあてはまる内容があったかを皆で話し合う場を実践させている。自分たちの行動が社会とどのように結びついているかを自覚する機会になっている。
 また、工場では全ての成型機に㎡(リューベ)メーター及び電力メーターを付けてCO2排出量を実測値ベースで可視化する。「大企業ならばAIを使うのかもしれませんが、当社は人海戦術です。数値化し確認させることでCO2について誰もが意識するように仕組みを作ります」。

同社はCO2排出量の見える化の取組みとして、Scope1(直接排出)・Scope2(他社から購入した電気・熱・蒸気による間接排出)の排出量を把握。今後はScope3(その他の間接排出)の排出量の見える化・精度向上を推進し、カテゴリー1~15の網羅を目指して当面はカテゴリー1~7に係る排出量の見える化に取り組む予定だ(2022年度目標)。

各成型機に付けられたメーター

従来廃棄していた砂を活用した、新たな取組みも始めた。
 「長年、鋳物メーカーに砂を処理してもらっていました。それでいいのかという問題意識は常にありました」

中子は鋳物の中に必要な空洞をつくるための砂型で、一定温度以上の熱が加わると崩れて砂に戻る。当然、大量の砂を廃棄する必要性に迫られる。
 プロジェクト名はSANDEELプロジェクト。砂(sand)とうなぎ(eel)を組み合わせた造語だ。地場産業である鋳物で産廃処理されている砂型の砂と、養鰻業で課題になっている汚泥を組み合わせ、その土壌でサツマイモを育て焼酎を蒸留する。2023年5月に第一弾が納入される予定だ。従業員が植え付けから収穫、焼酎ビンに巻くラベルのデザインにもこだわる。

「産廃物から付加価値を生み出す。資源循環の考えはこれからますます重要になるのでは」。榊原勝社長はプロジェクトの背景を語る。

第三者の評価が「仕組み」をつくる

こうした仕組みづくりの成果を確認する手段として「非常に有効」と語るのが商工中金のポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)だ。事業のサステナビリティ―(持続可能性)を評価したうえで、融資する枠組みだ。融資期間中に環境負荷低減などをさらに高める目標を設定し、達成に向けて商工中金が伴走支援する。

「何に取り組んでどのような結果につながったかの履歴が『見える化』される効果は非常に大きいです。第三者の目で評価して もらえて、公表もされる。社内の仕組みづくりにこれほどありがたい枠組みはありません」。
 温室効果ガス削減の達成等が目標設定(KPI)として盛り込まれており、PIFが同社のSDGsを回すエンジンになりつつある。

企業にとって環境と並び大きなリスクになっているのが安全だ。PIFにもBCPの定期的な見直しを目標として定めている。
 同社は以前からBCPには積極的で、大規模災害で被災した際の代替生産拠点となる富山工場の稼働にあわせて仕組みづくりに着手。2016年には事業継続に積極的に取り組んでいる企業を認証する「レジリエンス認証」を全国の製造業で2番目に取得した。社内にワーキンググループを設けて、月に一回会合を開き、毎年6月1日付で全社員へ最新版を冊子で配布するなどBCPを見直している。

榊原社長は「企業を取り巻くリスクは複雑かつ大きくなっています。ただ、中小業にとって対応は簡単ではありません」とも語る。
 「やはり、資金が大きな障壁になります。『榊原さんは財務に余裕があるからできるのでは』ともいわれてきましたが、正直、余裕は全くありません。地域やお客様との共生、そして自社の発展のために実施していかなければならない、という信念でやってきました。そうした時に、取組みに関心をもっていただいた商工中金さんの存在は非常に大きかったです。SBT推進会議にも参加していただき、PIFの存在を教えていただきました。全国には意欲はあるけれども資金の問題で悩んでいる中小企業はたくさんいるはずです。ぜひ、力添えをしていただきたいです」。

「先進的な取組みをPR」 商工中金 名古屋支店 八木さん

榊原工業様のSBT推進会議に参加させていただくことになり、対話を重ねる中で環境対応には資金が必要というお話になりました。
 サステナブル経営に対する高度な取組みは知っていましたので、その上で私たちに何ができるかと社内で話し合いを重ね、PIFを提案いたしました。高い意識での取組みがPRになる点や年1回発行する環境報告書の中でも必要資金をPIFで確保していることが公表できる点を特に喜んでいただきました。
 これまでは推進会議の中で環境対応について学ぶことばかりでしたが、これからは私からも環境対応に対して発信できるように伴走していきたいです(談)。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
「ニュースイッチ×商工中金 フリーペーパー」でも紹介中。ダウンロードはこちら

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