熊本地震で活動した活断層を調査して分かったこと
全国に分布する活断層のほとんどは、人々の生活圏に隣接しているため、活動すると甚大な被害を及ぼす。活断層で発生しうる地震の規模や過去の活動履歴などを明らかにすることは、防災対策を考える上で重要である。我々は、全国の活断層を対象として、活断層評価を行ってきた。
2016年4月に発生した熊本地震は活断層が活動した事例である。我々は、地震活動に伴う地割れ(地表地震断層)を調査し、地表地震断層の位置、変位の様子、変位量の分布を明らかにした。これらは地震時の断層の動きを知る基礎データとなる。
地表地震断層は風雨による浸食や災害復興による修復によって失われやすいため、熊本県阿蘇市から宇城市までの広範囲を迅速に調査する必要性に迫られた。活断層を調査できる総勢13人の研究者を招集し、約3週間で主要な箇所について現地調査を完了した。実力ある研究者がそろう産業技術総合研究所(産総研)だからこそ、なしえたことと強調したい。
熊本地震時に主に活動した布田川断層に隣接する日奈久断層帯高野―白旗区間では、北部にのみ新たな地表地震断層が生じた。しかし、高野―白旗区間の活動性は地震発生前には正確に把握されていなかった。
将来の地震発生の手がかりを得るため、過去の活動履歴を解明すべくトレンチ調査を実施した。調査では、当該区間の山出地区において断層を横切って溝を掘削し、露出させた地層から過去の地震の発生時期を調べた。その結果、1万5千年前以降に7回の地震活動があり、地表まで変位を与える規模の地震が2600―2900年間隔で起きていることが分かった。
また、当該区間単体の活動では説明できない規模の変位が一部の地震活動で検出された。これは、隣接する区間と連動した地震活動があったことを示唆している。布田川断層帯においても同程度の頻度で地震が生じていたことが我々や他機関の調査で明らかになった。
このような活断層調査の成果は、文部科学省の地震調査研究推進本部における検討を経て公表され、国や地方公共団体などでの防災対策に活用される。今後も災害への備えに貢献すべく、信頼性の高いデータを提供していく。
産総研 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門 活断層評価研究グループ 研究員 白濱吉起
変動地形学を専門とし、入所以来継続して活断層の評価業務に携わっている。地形解析やトレンチ調査、種々の年代測定技術を組み合わせているが、たいてい一筋縄ではいかない。評価の精度を高められる新しい技術があれば柔軟に取り入れ、研究を進めていきたい。