トラック販売首位陥落…エンジン不正発覚1年、日野自動車の現在地
日野自動車がエンジンの排出ガスや燃費試験での不正を公表してから1年がたつ。主力トラックの出荷・生産停止に追い込まれ、国内販売台数が大幅に減少し業績は低迷する。出荷・生産の正常化に向けたエンジンの型式再取得は難航しており、補償などによる特別損失がさらに膨らむ公算が大きい。海外ではエンジン不正問題をめぐって集団訴訟や米司法省の調査を受けており、いまだ予断を許さない状況が続いている。(石川雅基)
22年4―12月期、国内販売6割減で首位陥落
日野自は2022年3月、エンジンの排出ガスや燃費試験で16年から不正を行ってきたことを公表した。その後、弁護士らで構成する特別調査委員会や国土交通省の調査で、少なくとも03年から不正な試験方法で型式指定を取得していたことが発覚。不正のあった期間や対象車が広がり、出荷を停止する車種が相次いだ。8月下旬には国内向けのトラック、バスをほぼ全て出荷できない異常事態に陥った。
これらの影響から、22年4―12月期の普通トラック(積載量4トン以上の大中型トラック)の国内販売台数は前期比63・2%減と大幅に下落。普通トラック国内販売台数トップの座をいすゞ自動車に明け渡す結果となった。
今後、日野自が経営を立て直す上で焦点となるのは、国内向け大中型トラックの一部車種で取り消されているエンジンの型式指定の再取得の時期だ。現在「E13C」のエンジンを搭載した大型トラック「プロフィア」、「A05C」のエンジンを搭載した中型トラック「日野レンジャー」の2車種で、エンジンの型式指定が取り消されており、再取得を目指している。2車種は22年3月期の国内販売台数の約23%に当たる主力車種だけに、早期に型式を再取得できるかが経営再建の一つのカギになる。
型式指定を再取得するためには、排出ガスが規制値に適合するように改良した上で、大型で9カ月程度、中型で7カ月程度をかけて劣化耐久試験を行って基準を満たしていることを確認することが求められる。その後、国交省が日野自の申請内容を2カ月かけて審査する流れとなる。
日野自の小木曽聡社長は「お客を待たせているので型式を再取得でき次第、出荷・生産を再開したい」とし、23年夏までに型式指定を再取得することを目指してきた。ただ、エンジンの改良が想定通りに進まず、いまだに劣化耐久試験に入れていない状況だ。日野自は「必要な性能確認を十分行い、準備ができ次第、劣化耐久試験を始めたい」という説明にとどめている。
2車種の出荷停止についてゴールドマン・サックス証券の湯沢康太マネージング・ディレクターは「(型式指定が取り消されているのが)比較的収益性の高い大中型トラックのエンジンであるため、同社の収益影響も大きい」と機会損失の影響を指摘する。
出荷停止の長期化により、特別損失がさらに拡大する危険性もはらんでいる。日野自は22年4―12月期連結業績に、サプライヤーや顧客などに対する補償損失として102億9200万円を計上した。型式再取得までの期間が延びることで、対象期間も長くなるため、特別損失も拡大する方向だ。
米・豪で集団訴訟など予断許さず
日野自は23年3月期連結決算で550億円の当期赤字を予想する。21年3月期は74億円、22年3月期は847億円の当期赤字だったため、3期連続となる見通しだ。ただ、22年12月時点の自己資本比率は33・4%ある。加えて22年11月には三菱UFJ銀行と2000億円のコミットメントライン(融資枠)契約を無担保・無保証で結び、財務基盤の安定を図っている。資金面について日野自の松川徹財務・経理領域長は「大きな影響はなく、金融機関や(親会社の)トヨタ自動車とも常に相談している」と健全性を強調する。
しかしリスクはくすぶる。米国、豪州での排ガス試験対応をめぐる集団訴訟、米司法省による調査も予断を許さない状況が続いている。東海東京調査センターの杉浦誠二シニアアナリストは「(米司法省の調査で最終的に問題があると判断されると)他の先進国でも米国のようにエンジンやトラックの供給を受けてビジネスを展開せざるをえなくなる可能性もある」とみる。
日野自製エンジンの問題が指摘された米国では、米カミンズからエンジンの供給を受けてトラックを展開しているため、営業利益率が低下。台数が回復してもこれまでのように利益を伸ばせない苦しい状況だけに、先進国市場にも不透明感が漂う。
日野自の販売は日本、先進国市場で苦戦を強いられている一方、新興国市場は好調。その中でもインドネシアは、22年4―12月期に前期比52・6%増の2万3518台を販売し、日本の同期の販売台数に迫る勢いをみせている。これまでのところ「日本でのエンジン不正によるブランド毀損(きそん)が新興国市場での販売に影響を与えていない」(杉浦シニアアナリスト)。ただ新興国の消費者はトラックを選ぶ際、日本の販売状況も参考にするケースが多く、日野自の日本での販売台数がさらに落ち込めば、新興国での販売に影響を与える可能性もある。
日野自の事業環境は日本、先進国、新興国の各市場で大きく異なるだけに、当面難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。
国内市場 需給逼迫続く
22年の普通トラック国内販売は前年比33・3%減の5万5874台と落ち込んだ。日野自だけでなく、いすゞは同30・2%減、三菱ふそうトラック・バスは同22・7%減と、ともに大幅に販売台数が下落した。半導体不足が足かせとなり、減産を強いられているため、底堅い需要があるものの、思うように販売を伸ばすことができない状況となっている。いすゞの片山正則社長は「今は半導体不足で顧客の要望に応え切れていないため、他社やシェア争いは関係ない」と苦しい胸の内を明かす。
今後の普通トラックの国内市場の見通しについて東海東京調査センターの杉浦シニアアナリストは「ビジネスで使うトラックは乗用車のようにブランド毀損による影響を受けにくい」とした上で「トラック不足が続いているので(日野自が)出荷を再開したものから、それなりの引き合いが出てくる」とみる。
事業者にとっては、不正を起こした日野自のトラックを避けたい気持ちがあっても背に腹は代えられない状況であるだけに、「(24年3月期は)日野自がシェアを戻してくる可能性は十分ある」(杉浦シニアアナリスト)と分析する。