印刷で細い配線を引く技術持つスタートアップ創業者が「研究者は絶対に起業した方がいい」という理由
細線印刷銅ニッケルインク
物質・材料研究機構発スタートアップのプリウェイズ(茨城県つくば市)は印刷で細い配線を引く技術を持つ。1000度Cの高温に耐えられるため、セラミックコンデンサーの焼結工程にも適用できる。現行のニッケル配線を銅ニッケル合金に置き換え、大幅なコスト低減を実現する。
「研究者は絶対に起業した方がいい。起業1年で一生分の勉強をした」と創業者で最高技術責任者(CTO)の三成剛生物材機構グループリーダーは振り返る。開発技術の反響は大きく、プリンテッドエレクトロニクス業界の大企業とはほぼすべて面談した。毎週のように企業の課題を聞き、「企業が何を求めているか分かった。研究の方向決めに役立った」と説明する。
注目されたのは銅とニッケルの配線用インクだ。配線パターンを印刷して加熱すると、銅をニッケルの薄膜が包むコアシェル構造のナノ粒子ができる。このナノ粒子がつながり抵抗の小さな配線を作る。銅の耐熱性や耐酸化性は低いが、ニッケルに包まれることで1000度Cに耐える。セラミックコンデンサーでは焼結温度が高いため、ニッケルを用いてきたが安価な銅に置き換えられる。
現在、銅ニッケルインクの大量生産に向けてプロセスを開発中。形成配線の曲げや熱、湿度への耐久性は確認済みだ。顧客の印刷プロセスとの調整を誰が担うか、ビジネスモデルを検討している。三成CTOは「製品が完成し、設備投資競争になったら自分の出番はおしまい。次の研究に打ち込む」と話す。
起業のきっかけは研究室で物材機構の起業支援のチラシが目に留まったことだ。設備やスペースをレンタルできるという内容で、その料金は年に一つ二つ会社として仕事をこなせば払える額だった。三成CTOは「ゼロリスクで起業できる。やらなきゃ損に思えた」と振り返る。結果、研究と事業化の好循環が生まれた。「会社を上場させて早期退職することが目標だったが、研究が面白くてやめられそうにない」と目を細める。