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JST「蓄電池PJ」がひな形、文科省の脱炭素大型事業は強烈な指導力がカギになる

文部科学省の脱炭素への大型事業「革新的GX技術創出事業(GteX)」は強烈なリーダーシップでけん引される事業になりそうだ。ひな形となる蓄電池研究事業では当初77人の研究者のうち10年後に残ったメンバーは36人。人を入れ替え、トップ研究者を集めて運営してきた。この方式を水素・燃料電池やバイオ生産の事業に展開し、従来の延長線上にない技術を開発する。(小寺貴之)

「よくある連携ではない。本当にワンチームになってもらう」と科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は強調する。GteXは経済産業省の「グリーンイノベーション基金事業(GI基金)」のカウンターパートとして設定された。予算は496億円。うち80億円を設備投資にあて、385億円で3分野5年間の研究を進める。1分野の年間予算は約26億円。全国のトップ研究者をネットワーク化し、一つのチームとして研究を推進する。

ひな形となるのはJSTの蓄電池プロジェクト「ALCA―SPRING」だ。50機関の80研究室が参画する。開始2年と5年、8年のステージゲートで組織を改編してきた。運営総括を務める物質・材料研究機構の魚崎浩平フェローは「途中から参画した異分野の研究者が活躍した」と振り返る。

同プロジェクトでは大なたを振るってきた。例えば物材機構の金属空気電池の研究チームはソフトバンクとの共同研究へ移管。硫化物型全固体電池の研究チームは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業へ移管された。全固体電池チームを率いる大阪公立大学の辰巳砂昌弘学長は「JSTとNEDO事業で技術成熟度を段階的に高めた。事業化を見据えた研究が人材育成や基礎研究を活性化する好循環があった」と説明する。

大胆なチーム改変は事業推進には有効だが反発も小さくない。橋本理事長は「強権的と言われても、意図が理解できれば研究者はついてくる」という。

GteXでは基礎研究と実用化に加えて、国際ルール形成などとの連携も必要になる。学術界と産業界の連携に加え、政策立案部門に科学的根拠を提供する役割が期待される。ワンチームとなるべき領域は広がる中、リーダーシップが問われることになる。

日刊工業新聞 2023年02月08日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
科学技術政策界隈では、基礎研究と社会実装の同時進行や基礎実装直結型の開発にどう対応するか議論されています。大学での基礎研究と産業界での実用化が、従来のステップバイステップでなく、基礎研究をしながらリスクマネーを集めてスタートアップを走らせる並列モデルになりました。AIや量子などの開発負荷が小さく、世間的にもキャッチーな分野で始まりましたが、設備投資の重い製造業にも広がっています。この技術開発と産業投資の連結に国際ルール形成が加わったのが脱炭素です。炭素の値段や算定手法の妥当性、温室効果ガスだけでなく、資源リスクや環境負荷、生態系保全も含めて評価できないと交渉で負けかねません。そして国際ルール形成は日本が遅れをとってきた部分です。賛同票をいかに集めるか。科学技術外交の文脈では、途上国の脱炭素ロードマップの代筆と技術供与が挙げられます。発電所を建ててあげて1票を買うよりも費用対効果は高いかもしれません。ロードマップから握れば、途上国への脱炭素支援基金も日本企業に還ってきやすくなります。基礎実装外交直結型の開発を描く政策部隊が必要に思います。

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