車をオーディオルームに!「フルデジ」「ハイレゾ」が新しい市場つくる
ナビ技術が成熟化。ユーザーが価値を音楽へ
マイスターの本気、歪み・ノイズ抑制
多くのデジタル技術によって進化している音響技術だが、“どんな音”に仕上げるかは各社の個性がある。音を一つずつ際立たせたるメーカーも、全体感を重視するメーカーもある。
アルパインの音づくりを統括するサウンド製品設計部サウンドマイスター部付の小堀幸弘氏は「ミュージシャンの音楽性まで再現したい。他社の音を追い抜くのでなく、アルパイン独自の音で選ばれたい」と語る。
同社の音づくりは独自のS.T.A.R(スター)理論をもとにした電子部品の選択や回路設計がベースだ。理論の内容は極秘で、歪みやノイズを抑えて音源の信号を余さず通過させるための考え方だという。
同理論をもとに開発を続け、電子部品や設計が進化すれば、より理想の音に近づくというわけだ。理論自体は90年代からあったが、理論の8―9割を実現できる手法は08年ごろにできあがった。
「1000万円の高級オーディオセットの音をカーオーディオで実現したい」(小堀氏)といい、日々製品と向き合い、聴き比べる。この音響技術は主力カーナビ「ビッグX」にすでに導入され、同製品のヒットを支えている。
独自の部品も同理論の実現には不可欠だった。各種コンデンサーや電源など主要部品は最高の音を追求するため共同開発しており心臓部のパワーICはSTマイクロから供給を受ける。「(同社は)すぐにスター理論に興味を持ってくれて、音質は劇的によくなった。とても熱心で、パワーICの性能は毎年向上している」(小堀氏)。
音にこだわり抜いた製品の増加に加え、車内で音楽を楽しむ新型車も出始め、クルマの音響技術は少しずつ注目度を高めつつある。成熟市場ではクルマの嗜好が二極化する中、“音”で新しい市場をつくろうと各社の挑戦が続いている。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2016年2月10日「深層断面」