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31%→75%…研究成果のプレスリリース、記事化率が大幅に向上した仕掛け

東京大学物性研究所は研究成果のプレスリリースについて、研究室に対する課金制を導入することで、広報部門の負担軽減と新聞における記事化率の向上に成功した。研究者の業績となるリリース作成と発表が目的化している点は、大学や研究機関で共通の課題だ。物性研では記事化率が31%まで落ちていたが、研究者自身が絞り込むことで75%に高まった。ウェブサイトや会員制交流サイト(SNS)などとの使い分けが、ポイントになりそうだ。

東大物性研では、約40の研究室から年平均10報の論文が出ている。この内容を基にしたリリースを出したいとの研究室からの希望に対し、2020年12月から試験的に1件数万円を課金した。「リリースは論文のうち優れたものに限り、他はウェブサイト掲載にとどめる」といった判断を、研究者ら自らに委ねた。

これによりリリース数は、2020年度の31本から21年度の18本に大きく減った。このうち広報がリリース作成の負担を負いながら、記事化されなかったケースが、20本から14本に抑えられたメリットが大きいという。

記事化率(複数メディアが取り上げた件も1本でカウント)は同時期に36%から22%へ下がったが、制度が浸透した22年度は、10月末までの数字で75%と飛躍的に改善した。なお論文数に新型コロナウイルス感染症の影響はないとみている。

リリース数は近年、研究業績で扱われることが増えた。そのため「論文はすべてリリース化したい」と安易なケースが増加。大学の広報部門では、研究内容の優劣を付けにくく対応が難しかった。課金制は記事化という目的を研究者が再認識し、選択するよう促す手段となりそうだ。

日刊工業新聞 2023年01月12日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
研究成果のリリース数は、東大全体で10年前は年200件程度だったのに、ここ数年は400-500件にも上る。医、工が多いなど部局による差がある。物性研は基礎研究の部局のため、「記事にならなくても構わない」といいながら、リリースの原案を持ってくる研究者もいるそうだ。広報としては「そうなら持ってこないでください!」と突き放したいケースではないか。そうもできずに、「労多くして功少なし」は辛いだろう。リリース課金に驚く大学関係者は多いと聞くが、「より高度な活動にエネルギーを注ぎたい」との思いは共通のはず。他大学・部局でも今回のケースは、大いに参考になるのではないか。

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