地球にやさしい水素社会の実現、鍵を握る磁気冷凍技術とは?

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【余剰電力を貯蔵】

温室効果ガスの大幅な削減が叫ばれる中、化石燃料に頼らないエネルギーシステムへの移行が求められている。中でも最も理想的な形は、太陽光や風力など再生可能エネルギーを1次エネルギー源として発電を行い、その発電で生まれた余剰電力を適切な2次エネルギー源に貯蔵する複合システムである。

2次エネルギー源の有力候補の一つが、長期大量備蓄に適した液化水素である。余剰電力で水を電気分解し、発生した水素を液化して保管、必要な時に水素を使って発電するという水素社会の実現を、日本は世界に先駆けて目指そうとしている。その実現の大きな壁になっているのが、水素液化にかかる費用が高額なことである。

気体水素は液化水素よりも体積が800倍大きいため、水素の大量消費時代には、水素を20K(約マイナス235度C)まで冷やして液化する技術が不可欠である。現在、水素の液化にはエアコンや冷蔵庫と同じく、気体冷凍方式と呼ばれる技術が利用されている。この気体冷凍方式は産業革命期の古い技術であり、性能の劇的向上は期待できない。そこで物質・材料研究機構(NIMS)が注目したのが、磁気冷凍方式である。

【10カ年計画】

磁気冷凍方式は、磁性体に磁石を近づけると発熱し、離すと温度が下がる“磁気熱量効果”を使って低温を発生させる技術で、原理的には気体冷凍方式よりも液化効率は優れている。しかし、気体冷凍方式に比べてシステムが複雑なため本格的には実用化には至っていない。

NIMSでは磁気冷凍方式による高効率な水素の液化を目指し、2018年より10カ年の大型プロジェクトを開始した。プロジェクトにおける課題は、大きく分けて材料開発と冷凍システム開発の2種類ある。

材料開発の目標は、水素の液化に必要な温度域(20―77K)において磁気熱量効果の大きな新たな磁性材料を開発することである。既存物質の改良と並行して、新物質探索も行っており、人工知能(AI)を使うことで思いもよらない物質も候補に挙がってきている。

さらに、水素の液化には1テスラ以上の強磁場が必須であり、そのような強磁場を発生させる超電導磁石の開発と、超電導磁石と磁気熱量効果の大きな磁性材料を組み合わせた冷凍システムの開発も重要である。

【高効率化進める】

NIMSはこれまで数十年にわたって超電導磁石や冷凍技術を開発してきた。さらに磁性体の開発でも世界をリードする成果を上げてきている。

これらの蓄積を集結し、水素社会の実現に向けて、磁気冷凍技術の高効率化を着実に進めていく。

◇物質・材料研究機構(NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点 液体水素材料研究センターセンター長 清水禎

1988年東京大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了(理学博士)、東京大学物性研究所、金属材料技術研究所、物質・材料研究機構などを経て19年4月から現職。

日刊工業新聞2020年4月15日

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