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【ディープテックを追え】物流危機を救う!リニアモーターを使った倉庫ロボットとは?

#114 Cuebus

東京都江東区の物流倉庫。その一角に“ジャングルジム”のような装置がそびえたつ。コンピューターから指示を送ると、目の前まで荷物を積んだ棚がやってくる。正体はCuebus(東京都江東区)が開発した立体型のロボット倉庫。

同社を率いるのは、元々ソフトウエアエンジニアだった大久保勝広代表。畑違いのハードウエア開発に乗り出したのは物流業界への危機感からだ。物流業界では2024年にトラック運転手の時間外労働規制の強化が迫る。時間外労働に上限が設けられるため、物流拠点での待ち時間を減らすなど業界を挙げての取り組みが求められる。大久保代表は「ピッキングの効率を劇的に向上させる」と意気込む。

EC化の波に対応する

大久保代表は電子商取引(EC)向けの販売管理システムを開発していた。導入現場で起きていたEC化の波がロボット倉庫開発の出発点だ。大久保代表は「EC化がさらに進むと物流量が大きく増える。B2B向けの3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業が主体の企業では対応できない」と開発の動機を話す。

倉庫ロボットは、米アマゾン・ドット・コムが導入した自動搬送台車(AGV)から発想を得た。「友人からは『米国ではロボットがピッキングするものを持ってきてくれるようになっている』と聞いた。当時はAGVだとは知らなかったが、ものすごい発想と感心した」と振り返る。そこで同社が開発したのが先述の倉庫ロボット。荷物を積み込んだ棚が人の目の前までやってくる仕組みだ。大久保代表は「AGVと比較しても早く、狭い倉庫でも多くの荷物を集荷できる」と力を込める。

リニアモーターを採用

タイルとフレーム、マグネットを組み合わせる

ロボットはリニアモーターとセンサーを搭載したタイル、フレーム、キャスターをつけたマグネットを組み合わせる。タイルとフレームを縦横に組み合わせ使う。コンピューターで取り出したい荷物を指定するとマグネットが移動し、荷物を積んだ棚がピッキング場所までやってくる。

ユニークな点は倉庫の規模に応じて、ロボット倉庫を自由に拡充できることだ。タイルを増やすという簡単な動作で荷物の積載量を増やせる。コンピューターで荷物の出し入れを管理することで従来は難しかった、天井近くまで荷物を積み込める。

マグネットを動かすタイルにはリニアモーターを採用。一般的には直線運動を得意とするが、同社は水平方向にも動かせるようにした。回転モーターやギアなどを使わず、機器の耐久性を高めた。また火災のリスクを減らすため、タイルにバッテリーを使わない。通信機器やタイルは100ボルト電源で動かせる。

10月にも量産機を展開

大久保代表

すでに試作機は完成済みで、23年6月から量産機のテストを始める。早ければ10月から全国10か所程度で導入する。価格はタイルとフレームなど、1ユニット20万円程度を想定する。主に都市部の物流企業へ納入し、23年にはタイル5000個の販売を目指す。24年ごろに1万個程度の販売へ伸ばす計画だ。25年ごろの新規上場(IPO)も視野に入れる。

大久保代表は「アマゾンが使うKiva、ノルウェーのオートストア。将来はこの二つに食い込む第三極の存在になる」と海外展開も見据える。その他にも鉄道の駅構内にロボットを設置し都市型倉庫にしたり、バッテリーを使わない点を生かし、冷凍庫での活用も模索する。物流危機を逆手に倉庫に変革を起こせるか。

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