2023年が大学経営のゲームチェンジの年になる理由
2023年は大学経営のゲームチェンジの年になる。10兆円の大学ファンド事業を立案した内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)がそれを強く望んでいるためだ。従来の運営費交付金に頼った大学経営ではなく、産業界などから資金を集め、事業を回す。国に依存しない経営を求めている。
「従来の延長の大学は必要ない。ゲームチェンジを起こす大学を求めている」とCSTIの上山隆大常勤議員(元政策研究大学院大学副学長)は強調する。大学ファンド事業で支援される国際卓越研究大学についてだ。同事業では10兆円の運用益3000億円(想定)を数校の卓越大に配分する。従来のゲーム(経営)とは違う新しいゲームを求めている。
そのため初年度の審査で全額を使い切るほどの経営計画が出てくるとは考えられない。同事業を担う科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は「選ばれる大学への要求は極めて高い。一つも選ばれないこともありえる」と説明する。
ただ数年掛けて既存の大学に経営改革を強いるよりも、新しい大学を作った方が早いという意見もある。3000億円があれば東大規模の理想の大学が作れる。上山議員は「新しい大学はぜひやりたいが、それは叶わない。せめて新しい大学像は示したい」と語る。グローバル・スタートアップ・キャンパス構想で具体像を示していく。
大学の立て直しのために立ち上げた事業を初年度から新大学設立に使うのは難しい。だが2年、3年とゲームチェンジにたり得る経営計画が出てこなければ、具体像として出てきた組織が受け皿になる可能性がある。
一方で、応募する側の学長からはゲームチェンジとは何なのか疑問符が浮かんでいる。ヒントの一つはスケーラブル(規模の制約なく)研究が拡大する環境だ。基礎研究と社会実装が極めて近接し、海外では研究しながら事業構想や資金調達を考えるようになった。人工知能(AI)や量子などの分野では研究室自体がスタートアップ化している。論文が投資を呼び込み、資金調達のめどがたったら法人を立ち上げる。大学もここに投資しリターンを得る。
もう一つが人材だ。育成した博士や研究者の価値を大学が値決めして企業に売り込む。自ら値決めするから共同研究費を高め、輩出する人材が低く評価されても反論できる。日本は企業が博士人材を雇わないことが問題とされるが、博士を安く使ってきたのは大学自身でもある。このままでは大学発スタートアップの原価を見積もることさえできない。上山議員は「この状況を変えるための卓越大」と説明する。ゲームチェンジを体現するのは既存の大学か、新しい大学か。23年は試金石になる。