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春闘スタート、大企業の好業績はどこまで波及するか

労使トップ、焦点を語る。サプライチェーン全体で生み出した価値の分配は?
春闘スタート、大企業の好業績はどこまで波及するか

大手と中小の賃金格差は拡大している


経団連・経営労働政策特別委員会委員長(日本郵船会長)工藤泰三氏「ベアばかり追求すると・・」


 ―連合の要求に対する評価は。
 「連合はベアで“2%程度”を求めているが、納得感ある水準だ。連合、経団連ともに、“持続性”を追求している。そんな狙いが込められた要求レベルと言えるだろう」

 「連合は月例賃金ベースの賃上げを掲げており、ベアの方が消費を喚起しやすいとのデータもあることも認識している。しかし、現在の消費実態は、人口減少や少子高齢化を背景に、社会保障などに対する将来不安が起因している。年収ベースか、月例賃金かといった単純な話ではないはずだ」

 ―昨年までに比べ、経営側はベアに慎重な感じがします。
 「決してベアを否定するものではなく、経営者側のスタンスは変わっていない。業績好調な企業はベアを実施してもらいたいし、実施すべきだと思う。しかし、重要なのは持続性。せっかく好循環が視野に入った現在、経営側も2年連続で賃上げしてきたというモメンタムを引き続き維持したい。あまりベアばかり追求すると、企業にとって”間口“が狭まる。年収ベースの方が企業にとって賃上げのハードルは低く、持続性を維持しやすいだろう」

 ―中小企業を含めた底上げについては。
 「たとえば大手メーカーが下請け企業に対する取引価格を一時的に引き上げても、この関係は長続きしない。それよりも生産性向上を一緒に考えていくことが重要だ。生産性向上は1社だけでは実現しない。コスト低減など一緒になって検討し、低減分を折半することが、日本企業の強みであり、中小企業の底上げにつながる」

 ―日銀によるマイナス金利導入は今春闘に影響しますか。
 「発表後には為替相場は1ドル=120円台に戻ったほか、株価も上昇した。政府・日銀が景気回復への環境整備を強める姿勢は、日本経済にはポジティブに働くだろう。今後の動向を注視していく必要があるが、春闘に関しては全体で大きな影響はないだろう」
(聞き手=井上渉)

連合会長 神津里季生氏「月例賃金が上がっていくことが重要」


 ―今春闘の取り組みはどうなりますか。
 「キーワードは『底上げ春闘』だ。中小企業の賃上げや非正規労働者の待遇改善に取り組む。バブルまでは大企業も中小企業も賃上げ率は変わらなかったが、バブル崩壊後、格差が広がり続けた。この是正に取り組んでいく」

 「それを前に進めていくためには『持続性』『月例賃金』『広がり』『底上げ』の四つがカギとなる。まず持続性。過去2年間賃上げはあったが、1年や2年ではデフレ脱却は夢のまた夢だ。賃上げが今後も期待できることが将来に希望を持てることになり、経済の好循環につながる」

 ―経営側はベア実施には消極的です。 
 「月例賃金が上がらなければ経済の好循環にはつながらない。個人消費の拡大に影響するのは圧倒的に月例賃金だ。例え一時金が短期的に下がっても月例賃金が上がっていくことが重要だ」

 ―今年も「官製春闘」と言われています。連合の見解は。 
 「政府が政労使会議で賃上げがデフレ脱却に必要、と言っているだけだ。オイルショック時は逆にハイパーインフレが生じ、当時の福田赳夫蔵相が『このままだと国民生活が破綻する。要求を控えて欲しい』と発言。トップリーダーが要求を抑えた。今はその逆だ。昨年の官民対話で安倍晋三首相が経営側に賃上げを要請したが、99%の経営者は『私には関係ない。官邸と関係がある会社の話だ』と思っている」 

 ―格差是正に向けた具体的な取り組みは。
 「公正取引を前面に出しサプライチェーン全体の問題を取り上げる。親会社だけがもうける構図はおかしい。トリクルダウンの発想から抜け出せない。下請け企業も声を上げるべきだ。経団連に加盟する企業は一部分だ。大半の企業が加盟していない。中小が大手を上回る要求を行ってもおかしくない。『長いものには巻かれろ』ではデフレを加速させるだけだ。大手メーカー→1次→2次という従来の引き上げパターンを変えていきたい」
(聞き手=八木沢徹)
日刊工業新聞2016年2月2日「深層断面」
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
大手企業が高収益を上げれば、水がしたたり落ちるように中小企業に波及する「トリクルダウン」効果の限界が叫ばれるようになったのはこの2年あまり-。いまだ「その発想から抜け出せない」と指摘する連合会長の指摘には同感。しかし、その限界をどう打開するのかは難しい。

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