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春闘スタート、大企業の好業績はどこまで波及するか

労使トップ、焦点を語る。サプライチェーン全体で生み出した価値の分配は?
春闘スタート、大企業の好業績はどこまで波及するか

大手と中小の賃金格差は拡大している

**アベノミクスのマジック
 労使トップ会談が先週末、都内で行われ、2016年春闘交渉が事実上スタートした。連合は今春闘を「底上げ春闘」(神津里季生会長)と位置づけ、中小企業労働者と非正規労働者の格差是正を初めて前面に押し出した。一方、経団連側は「収益が拡大した企業は年収ベースで応えるべきだ」(榊原定征会長)と主張。大企業が稼ぎ出す収益が中小企業と非正規労働者の底上げにどこまで波及するかが焦点となる。

 政府は国内総生産(GDP)を600兆円まで増やす目標を掲げているが、それにはGDPの6割を占める個人消費の底上げが必要となる。安倍晋三首相は「昨年の賃上げ率は過去15年間で最高だった」とアベノミクス(安倍政権の経済政策)効果を誇るが、2・38%は厚生労働省による大企業を中心とした調査。しかも定期昇給(定昇)を含んだ数字だ。

 連合の定昇を除いたベースアップ(ベア)要求は「2%程度」。定昇分と合わせた賃上げ目標は約4%だが、15年春闘での平均賃上げ率は2・20%にとどまり、物価上昇を含めた実質賃金は上がらなかった。

 しかも昨年6月1日時点で組合員300人以上の企業では0・16ポイント増の2・28%に対し、300人未満の企業は0・11ポイント増の1・90%と格差はさらに広がっている。厚生労働省の調査では、従業員30人未満の事業所の賃金上昇率は平均0・9%と前年を0・2ポイント下回った。従業員の7割を占める中小労働者と労働者全体の4割を占める非正規の底上げができるかが経済の好循環の成否を握る。

円安の恩恵は大企業だけ「取引価格を注視」


 連合は昨年10月に中小企業2万社を対象に「取引関係に関するアンケート」に行った。トヨタ自動車など大手労組が春闘相場をリードしてきたこれまでの春闘から「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の分配」を目指し、中小、非正規の底上げを目指す。

 政府も「円安の恩恵を受けているのは大企業だけで中小企業には浸透していない」とし、取引価格を注視して中小企業の収益改善と賃上げを支援。景気の好循環を目指す。

 連合は全ての構成組織が参加する「中小共闘担当者会議」を立ち上げた。中小共闘の底上げ、格差是正に向けた賃金引き上げ要求水準は連合方針のベア2%相当額との差額を上乗せした金額「6000円」と定昇に当たる賃金カーブ維持分「4500円」を合わせ1万500円を目安とした。

 主要労組は2月中旬に要求を提出し、大手製造業の集中回答日は3月16日。連合は今年から新たに3月末に「中堅・中小集中回答ゾーン」を設定。中堅・中小組合の早期決着への取り組みを強める。

 これに対し経団連の榊原会長は「今年も(ベアは)選択肢という考え方だ」とベアへの取り組みが後退していないことを強調した。しかし、中小企業からは「経団連に加盟する大企業と我々とは違う」という声が上がっており、日本型取引慣行の見直しと、サプライチェーン全体での利益分配という根本的な問題が横たわっている。
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日刊工業新聞2016年2月2日「深層断面」
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
大手企業が高収益を上げれば、水がしたたり落ちるように中小企業に波及する「トリクルダウン」効果の限界が叫ばれるようになったのはこの2年あまり-。いまだ「その発想から抜け出せない」と指摘する連合会長の指摘には同感。しかし、その限界をどう打開するのかは難しい。

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