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世界トップレベル研究拠点プロ、私大初の採択受けた慶応大学のテーマとは?

文部科学省は世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)で2022年度の採択3件を決めた。私立大学初の慶応義塾大学は、腸内微生物と臓器のデータを人工知能(AI)と量子コンピューターで高速解析する。中四国地域から初で拠点長が外国人の広島大学は、対掌性を持つ分子の性質を模擬した「キラルノット物質」で新物質を創成する。大阪大学メタバース(仮想空間)と医療を融合させるのが特徴だ。

広島大の拠点は「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」(SKCM2=エス・ケー・シー・エム・スクエア)」。生体に多いキラルで、片方に偏る性質を模擬した結び目をもつ「キラルノット物質」を作製し、キラルの原因や性質を明らかにする。数学、物理学、化学、生物学、材料科学、宇宙科学などを融合する。

イワン・スマリュク拠点長は広島大コンサルタント、米・コロラド大学ボルダー校教授で、キラルノット超物質の超断熱材を開発している。主任研究者は広島大8人に加え英・ケンブリッジ大学、米・マサチューセッツ工科大学、ドイツ・マックスプランク研究所などから11人だ。

慶大の「ヒト生物学―微生物叢―量子計算研究センター」(Bio2Q=バイオ・ツー・キュー)は、腸内における多様な微生物集合体、微生物叢の研究データ実績が土台だ。病気や発達・老化の多臓器解析データと合わせ、AIと量子コンピューターで解析する。

阪大の「ヒューマン・メタバース疾患研究拠点」(PRIMe=プライム)は、生体内現象や病気プロセスを仮想空間内で再現する「バイオデジタルツイン」を手がける。

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日刊工業新聞 2022年10月20日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
WPIはハイレベル基礎研究が対象で、かつては旧帝大クラスばかりだった。23年度からはハードルを下げたタイプも予定しているが、一足先の22年度採択も様子が変わってきた印象を与える。慶大は私立大学として初登場だ。広島大の拠点長は外国人。経歴をみると日本の留学経験などはない(米コロラド大が長い)。広大はキャンパスに内に、米アリゾナ州立大学の日本校を開校するという驚きの企画を展開することと合わせ、米国に特別なネットワークを持つのだと想像する。少し前の金沢大学の採択も話題を呼んだがWPIは、地域の大学の一歩上の研究力強化の事業として、大きく変わっていきそうだ。

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