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地域中核大学の研究どう支援?文科省予算要求で見えた全体像

文部科学省は2023年度から、大型学術基礎研究の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)をリニューアルする。これまでは旧帝大が大半だったが、地域中核・特色ある大学向けに申請ハードルを下げた方式を始める。また10年間の事業終了後も、民間資金獲得状況とのマッチングによる国費投入の仕組みを新設する。23年度の概算要求で同事業は92億円と、前年度当初予算の1・5倍を計上した。

WPIは大学の研究所などの学術基礎の研究拠点を、1拠点年7億円で10年間、支援している。申請条件はトップレベル研究者が約10人、研究者は総勢約100人、外国人研究者3割で、公用語が英語などだ。論文成果は高いが15年を経て、従来の課題を解決する新3手法を用意する。

地域中核の研究大学を意識するのは、ハードルを7割に下げて伴走成長させる「WPI CORE」だ。中盤まではトップ研究者5―7人、総勢50人を年5億円で支援。後半は通常のWPIと同条件だ。採択は3拠点だ。

2―3大学・拠点のアライアンスは「WPI2・0」だ。トップ研究者10―20人、総勢200人を年15億円で支援。日本発の新学術領域創出で、海外機関と研究室を相互設置するなど国際性を重視する。採択は1拠点だ。

また10年間の事業終了後は縮小が目立つため、5―9年目に拠点が獲得した民間資金に応じて、国の支援を継続する手法を導入する。基礎研究でも外国の研究支援財団などから、予算を得る事例が出ているためだ。活動中の拠点が終了する数年後に備えて、枠組みを構築する。

地域中核大学の研究力強化 学術研究・イノベ拡充

「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」を強化する、文部科学省2023年度予算の概算要求が明らかになった。研究力強化×経営改革を支援する新事業が56億円、共同利用・共同研究の仕組みで学際領域を開拓する新プログラムが27億円だ。各大学で中心となる学術研究と地域イノベーションの既存2事業も拡充。準トップから中堅の大学が研究力を高める手だてを固める。(編集委員・山本佳世子)

新事業「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」は、特定の強い研究分野の学内拠点を核に、経営資源を集中投入する大学が対象だ。平均年5億円、各大学の戦略に合った使い方を広く認める。

「経営戦略組織を構築したいとの大学の声が強い」(科学技術・学術政策局の産業連携・地域振興課)ことから、研究支援人材の雇用なら同組織を率いるプロデューサー、研究管理のプロジェクトマネジャーなど考えられる。この10年で浸透したリサーチ・アドミニストレーター(URA)、海外機関の仲介役、寄付集めのファンドレイザーもある。著名研究者なら、クロスアポイントメント制度で招く手法も有望だ。

さらに施設整備費20億円が用意されているのが目を引くが、これは公立・私立大学向けだ。国立大学は文科省の文教施設企画・防災部で、イノベーションコモンズ(共創拠点)の建物プランを支援しているためだ。

気になるのは同パッケージと対になって進む、10兆円大学ファンドの国際卓越研究大学を考える大学の動きだ。「22年内開始の同研究大学の公募初回に応募する場合は、新事業では対象外の見込み」(同)だ。そのため同研究大学への応募を見送る指定国立大学などが、新事業にくら替えすると、本当に応援したい準トップ・中堅大学がはずれてしまう―と事務局は悩む。

一方、「大学共同利用機関法人」の17機関や、100程度ある国立大などの「共同利用・共同研究拠点」に、新たな役割を担ってもらうのが「学際領域展開ハブ形成プログラム」だ。共同利用の仕組みは特定の学術コミュニティーの活用に偏り、「いいことをやっているのに誰も知らない」(研究振興局の大学研究基盤整備課)傾向があった。

今回は多様な大学との連携で総合知の創出に向けた分野融合を手がけてもらう。各機関の運営費交付金などと異なる形で、設備費を含む年6億円で2拠点、設備費なしの年2億円で6拠点を支援する。

これらの新施策を活用する核となる、大学の拠点事業も強化する。旧帝大が中心だった「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)は対象の枠を広げる。「WPI CORE」で要求要件を従来の7割にし、伴走成長方式で拠点形成を後押ししていく。

また「共創の場形成支援プログラム」(COI―NEXT)では23年度新採択の予算を確保する。育成型と本格型を各10拠点程度、増やす。

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日刊工業新聞2022年8月31日、9月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
これまで「総合支援パッケージは、地域や特定分野で社会に重視されている”すべて”の大学の研究支援をしてくれる」との期待が、なんとなくあった。しかし概算の支援全体像を見ると「WPIをはじめ様々な事業で応援するものの、手厚くなる主対象は限定されている」印象だ。中心となる新事業56億円の支援対象が、7大学というのが理由の一つだ。「へたをしたら10の指定国立大のうち、上位3程度が国際卓越研究大学になり、下位7程度がこの新事業をさらっていくのではないか」という不安を持ってしまう。実際は指定国立大以外の、私立公立大の上位校も入っての競争なので、日本の強みといわれる「分厚い中間層」に当たる大学にとっては厳しいだろう。実際、文科省の科学技術・学術政策局の幹部も、「これまでの各大学の着実な展開に基づいた支援をするが、ばらまきではない」と口にしている。31日に開かれた科学技術・学術審議会の研究力強化委員会では「国際卓越研究大学を目指す層(応募に至っていない大学)も対象だというのに、違和感を持つ」という声があった一方、「そうなると、国際卓越研究大学(に応募するも)認定を取りそびれた大学には、何の支援もないことになってしまい、おかしい」との発言も出ている。この先、紆余曲折となるかもしれない。

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