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「ステルス」技術確立へ。純国産戦闘機は飛び立つか

2月中旬に「先進技術実証機」が初飛行。ニッポンの航空宇宙産業の礎に

F2生産、1000社関与


 日本航空宇宙工業会(SJAC)によると、14年度の航空機生産額(速報値)は1兆6613億円。うち約7割が民間向けで、防衛向けは3割にとどまる。ただ、10年前の04年度は防衛向けで6割強を占めていた。

 戦後、日本では、ライセンス生産や共同開発によって戦闘機や練習機を製造してきた。しかし日米共同開発の戦闘機「F2」が11年に納入を終え、国産戦闘機の新規製造は途絶えた。F2の機体生産には約1100社が関与。F2後継機の国産が決まれば防衛産業の基盤拡大につながる。

 11年に導入が決まった戦闘機「F35」は、米国からの輸入がベース。国内企業の参画は最終組み立て・検査(FACO)や整備、一部部品の製造などに限られる。永野尚富士重工業専務執行役員は「効率的で柔軟な機体運用に加え、防衛生産・技術を維持向上する上でも(戦闘機の)国産化を期待する」と語る。

「空白」に危機感も国産化へハードル高く


 業界では国内生産の空白に対する危機感が強い。11年にSJACが作成した資料では、16社中13社で他部門などに人材流出があり、人材が流出して5年後にその人材を戦闘機事業に戻すことは不可能と回答した企業が13社中12社あった。

 航空機関連企業では民間機と防衛省機の部品が同一の現場で生産されることが多い。民需と防需の双方で生産が増えれば、工場の稼働率向上につながる。長年、防衛関連を手がけてきた三菱重工の協力企業会「名航協力会」の会員企業の社長は「防衛省機の生産は我々の“本業”。国産戦闘機を待ち望んでいる」と期待を隠さない。

 民生品への技術波及効果も大きい。F2が採用した複合材の一体成形主翼の技術は、三菱重工による米ボーイング「787」の主翼につながった。レーダー技術は料金自動収受システム(ETC)に、チタンボルトの技術は医療用ボルトに応用された。

 ただ戦闘機の国産化にはハードルも高い。まず技術的な問題。防衛省はIHIとともに推力15トン級の戦闘機用エンジンを開発している。ステルス性を高めるため空気の採り入れ口は小さくしつつ、かつ大きな推力を出すため内部の燃焼温度を1800度C程度まで高める計画だが、技術の確立には一定の時間がかかるとみられる。

ステルス性など要素技術が高度になる中、開発費の高騰もネックだ。防衛省はF2後継機の開発経費が総額5000億―8000億円が必要だとみている。国費負担を前提としているため、予算措置は難航が必至だ。
(文=杉本要)

【私はこう見る】航空ジャーナリスト・青木謙知氏


 政府は先進技術実証機の成果を活用し、純国産戦闘機の開発の是非を判断することになる。ただ戦闘機は技術の高度化に伴い開発費が膨大になり、単独開発へのハードルは高い。

 ドイツやイタリア、スペイン、英国は単独開発を断念し、国際共同事業とした。また今は単独開発のスウェーデン、フランスも「次はない」という見方が主流。これに米国も加われば将来戦闘機は西側諸国の国際共同開発になる可能性が高い。

 国際共同開発に進む場合、最先端の技術を保有しておけば諸外国に提示できるし、実証成果を備えていれば開発グループ内で重要な地位を占めることも可能だ。先進技術実証機の意義はそこにある。

 戦闘機の国産化は航空宇宙・防衛産業には新たなビジネスの機会となるが、一方で多額の税金投入には批判もあろう。政府は難しい判断を迫られる。現在は将来に向け、基礎研究やデータ収集を進める時期であり、先進技術実証機にはその役割を全うしてほしい。
日刊工業新聞2016年1月29日 深層断面面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
防衛装備庁幹部は、実証機のステルス性能を「詳細は話せないが相当高いレベルにある」と言いました。有人ステルス機を実用化しているのは世界でも米国のみで、ロシアと中国が飛行試験中、日本が初飛行すれば世界で4カ国目だそうです。ただ、1990年代にそうだったように、国産戦闘機の開発に対して今後、米国から横やりが入る可能性もあります。純国産が難しいとすれば、海外との共同開発の中でいかにイニシアティブを取っていけるか。ステルスなどの技術獲得に満足することなく、それを活用して諸外国との交渉を有利に進める外交力が最も大切ではないでしょうか。せっかくの国産技術ですから、「技術で勝って事業で負ける」と、どこかで聞いたような結末にだけはなってほしくありません。

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