全固体電池の実用化が自動車産業に与えるインパクト
世界のモビリティー産業がカーボンニュートラル達成に向けてアクセルを踏んでいる。しかし、エネルギー不足や半導体の供給不安などを背景に市場の見通しを見極めることは難しい。そこで、モビリティー産業の動向を調査するS&P Global mobilityのアナリストたちに未来を見通す上で持つべき視点などを語ってもらう。
自動車メーカーはモビリティ産業の戦略物資としてバッテリーのサプライチェーン確立を急ぐ。その生産や供給の動向、次世代技術の展望について、車載バッテリー産業調査グループのリチャード・キムアナリストに聞く。
―電気自動車(EV)の普及で完成車メーカーの車載電池の調達力が問われています。
「EV市場は欧州と中国。2021年にジョー・バイデン米大統領が就任して以降、米国も急速に電動車への移行が進む。日系自動車メーカーはハイブリッド車(HV)で燃費や二酸化炭素(CO2)などの環境規制をクリアできていたためか、グローバルの車載用電池用部材調達で後れを取ったと思われる」
―日系完成車メーカーの巻き返しは難しいと見ますか。
「あくまで現状であり将来は分からない。先行したEV3市場は、規制やインセンティブ(奨励策)が一巡してしまった。日系メーカーは今、EVなど電動車への生産・販売の移行を急いでいる。車載電池に関して、日系メーカーは電池自体の技術力が高い。だが調達の競争力がどう変化するかは見えない」
―車載電池の確保には材料調達から生産前のバリューチェーン(価値の連鎖)が必要です。
「EVを核とした産業や社会の持続可能なエコシステム(生態系)構築には、安定した車載電池用部品や材料のサプライチェーン(供給網)が不可欠。日系メーカーはかねてHV用電池で供給網を形成してきた。だが、他のグローバル自動車メーカーは、EV用電池で積極的な投資と他メーカーとの協業で、より大規模な生産拠点を確保している。日系メーカーには政府との協力のもと、海外メーカーに負けない規模で協業や投資を実施することが期待される」
―リチウムイオン電池(LiB)の進化形として、全固体電池などの次世代電池開発が活発です。
「電池の小型、軽量化は早期に実現すべきで、全固体電池などの技術進化が大きく貢献すると期待される。車載電池は単3乾電池のように安全で、小型軽量かつ安価でどんな車両でも同じ種類の電池を簡単に交換できるようにする必要がある」
「特に全固体電池のイノベーションは、シリコンやリチウムメタルアノード活物質とともに、電池の小型・軽量化に大きく貢献することが期待されており、その適用タイミングを早める必要がある。全固体電池が実用化されて大量生産によって価格競争力が確保されれば、自動車メーカーの設計の自由度が高まる。全固体電池以外にもシリコンやリチウム金属など負極材の研究がカギとなるはずなので、実用化を急ぐ必要がある」