NICTが研究開発、「超低周波音」の生かし方
人が聞くことのできる音の周波数は、およそ20ヘルツから2万ヘルツである。これよりも高い周波数の音が超音波、逆に低い周波数の音が超低周波音だ。超音波は、超音波診断や距離センサーとしても身近に利用されている。これに対し、超低周波音は、まだあまり利用されていない。
超低周波音は英語でインフラサウンドと呼ばれ、例えば、火山の噴火や竜巻、雷や津波に伴って発生することが知られている。これらは、人間にとって大きなエネルギーを持つ自然現象であり、時に災害をもたらす。したがって、これらの事象の発生やその位置、様相の情報を知ることは、その後の影響の予測精度向上につながる。 超低周波音は遠くまで伝搬し、その過程でさまざまな変形を受ける。発生源の情報を推定するには、多くの地点で観測し多角的に解析する必要がある。我々は、その可能性の研究と社会実装に向けた取り組みを行っている。
最近注目を集めたのは、2022年1月に発生したトンガ海底火山の噴火において発生した気圧変化だ。日本からおよそ8000キロメートル離れており、地球の5分の1周ほどの距離に相当する。超低周波音と電磁波を用いるレーダーとの伝搬の違いは、電磁波が直線的なのに対し、音は伝搬媒質の全体に広がることである。そのため、例え音源が地球の裏側にあっても、大気に沿って伝搬して信号が届くのである。
我々の研究グループは、観測地点を効率的に増やすことを目的に、微小電気機械システム(MEMS)センサーを用いた小型で安価な観測装置を開発し、その有効性についてフィールド試験により検証している。観測データの一部は、日本気象協会の「インフラサウンド・モニタリング・ネットワーク」を通して、一般公開もされている。音は空気の粗密波であり大気圧の変化と変わらない。このサイトで見られるのも気圧データそのものだ。ただし、気象的な気圧変化よりも変化速度が速く振幅も小さいため、その情報を逃さず観測できる装置が用いられる。
今後、自然災害は増加するだろうと予想している人は少なくない。超低周波音だけで全てが分かるわけではなく、また発災時に全てのセンサーが利用できるとも限らない。私たちは、多くの手段で対象を観測できる仕組みを準備し、地球の声に耳を傾ける。
ネットワーク研究所・レジリエントICT研究センター・サステナブルICTシステム研究室 主任研究員 西村 竜一
1998年東北大学情報科学研究科博士課程修了。ATRで客員研究員を務めた後、東北大学電気通信研究所で7年間教職にあたる。06年、NICTに着任し、現職。音響信号処理の研究に従事。博士(情報科学)。