「ローカル5G」市場拡大の機運、富士通の戦略は?
第5世代通信(5G)を工場や建物などの自営網として使えるローカル5Gは制度開始から2年以上が過ぎたものの、コロナ禍の影響もあり、企業ではこれまで概念実証(PoC)にとどまっている例が多い。だがデジタル変革(DX)の潮流を追い風にローカル5Gの展示・検証施設の開設や拡張が相次ぐなど、市場拡大の機運が高まっている。ソリューションの品ぞろえ拡充にも力を注ぐ富士通の取り組みを追った。(編集委員・斉藤実)
ローカル5Gの主役は利用者である産業界や自治体だが、対象となる工場や建物などの所有者から委任を受けた事業者が免許人となり、サービス提供で共創することも可能だ。このため情報サービス業者の参入も相次ぎ、インフラ構築からアプリケーション開発、クラウド連携なども含めた垂直統合型の提案力で競う展開となっている。
「協業パートナーは30社、PoCは164件に上る」―。富士通の森大樹ネットワーク&セキュリティサービス事業本部5Gバーティカルサービス事業部長は胸を張る。同社は8月、通信関連事業の主力拠点である新川崎テクノロジースクエア(川崎市幸区)内の「コラボレーションラボ」でローカル5Gを軸とする先進ソリューション群を披露した。
例えば、5G×映像人工知能(AI)×高精度位置測位。デモでは天井に配置した高精細カメラを用いて、数メートル下の机に置いたARマーカー(3次元〈3D〉動画などを表示させる目印)をミリ単位で測定できることを実演した。
次にこの仕組みを用いて、ARマーカーを装着した無人搬送車(AGV)を映像測位技術によって自動制御するシステムを紹介。デモではAGVに荷物を運ばせ、数メートル離れた所定の場所まで移動して荷物を置く、といった作業を自動化した。
AGVは通常、床面の磁気テープに沿って動くが、デモではクラウド上に映像データをリアルタイムに送り、AIで制御することで磁気テープなしで自在に動き、かつ屋内でミリ単位での精緻な制御ができることを実演した。AGVの近くを人が横切ると、AVGが止まって衝突を回避するなど、人とロボットが共存する作業シーンも垣間見せた。
もう一つの目玉は5G×メタバース(仮想空間)。KDDIと共同で実店舗とメタバースを融合したサービスモデルを構築した。メタバースの世界観を生かしながら実際の店舗を丸ごと仮想化する仕組み。来店者は実店舗にいながらにしてアバター(分身)化され、仮想店舗上にも現れる。
スマートフォンアプリで外出先から接続し、スマホ画面上で店内を探索したり、店舗内にいる人と会話したりすることも可能。例えば入院中の人でも楽しく買い物ができそうだ。今後はこうした具体的な活用シーンを掘り起こし、ソリューションの普及につなげていけるかが問われる。