「インパクト投資」急拡大、脱炭素を資金面で支える金融業界の今
金融業界で、環境や社会分野の課題解決を目指す「インパクト投資」の取り組みが広がっている。同投資は経済的なリターンとともに、効果測定を必須として具体的な課題解決を目指す。企業の脱炭素化をはじめとした持続可能な社会を構築しようとする世界的なうねりの中で、資金面で支える金融の役割は欠かせない。(日下宗大)
「出資だけが目的ではない」。JA三井リースの加藤則泰執行役員はこう強調する。
同社は、再生可能エネルギー関連投融資で2021―30年度に累計5000億円を投じる。その一つが世界最大級のオルタナティブ資産運用会社であるカナダのブルックフィールドが運用するインパクト投資ファンドへの出資だ。同ファンドは脱炭素化に向けた産業変革の取り組みを支援する目的で組成され、JA三井リースは2000万ドル(約27億円)を出資する契約を結んだ。
加藤執行役員は出資を通じ、「グローバルで進んだ脱炭素の技術を吸収したい」と話す。その上で「さまざまな産業に属する顧客への提案活動で脱炭素の事業に投融資していく方針」と狙いを語る。
インパクト投資の残高は急拡大している。米グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)のアンケートによると、19年末の世界のインパクト投資残高は15年末比約26倍の4040億ドル(約54兆円)だった。それを基に推計した同残高の市場最大値は7150億ドル(約96兆円)としている。
クレディセゾンは20年末からインパクト投資事業を始めた。東南アジアや南アジアを対象にシンガポール子会社のセゾンキャピタルを通じて行っている。
新興国では「アンダーサーブド層」と呼ばれる、金融サービスを受けられない低所得者や中小零細企業が多い。こういった層に金融サービスを提供する現地のノンバンクやフィンテック(金融とITの融合)企業に対してセゾンキャピタルは貸付資金を融資する。インパクト投資を含む海外事業では各国の金融事情に精通した「プロフェッショナル人材を集めている」と管原耕治グローバル戦略企画部長は強調する。
インパクト投資の知見を共有する動きも出てきた。21年11月末に金融機関21社がインパクト投資を推進する活動「インパクト志向金融宣言」に署名した。インパクト投資の普及を目指す社会変革推進財団(SIIF)の担当者は「金融自体の役割を変える必要がある」とし「“意思を持ったお金”を流すのが重要だ」と話す。現在は30社以上が署名する。
同宣言の発足に深く関わった1社が、りそなホールディングス(HD)だ。同社はインパクト投資やESG(環境・社会・企業統治)の公募投資信託の販売金額を30年度までに累計2兆―3兆円にする方針を示している。
インパクト投資について社会に発信する取り組みも進める。りそなHDとりそなアセットマネジメントは上智大学と国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する連携講座を4月から開講した。
6月の授業ではりそなアセットの松原稔執行役員が教壇に立った。「サステナブル社会と資本市場」というテーマでインパクト投資にも言及。環境問題などを背景に金融を基点とした経済活動のルール形成が活発になっている状況などを解説した。
「金融業界は今、さまざまな役割を果たそうとしている」と、松原執行役員は力を込める。