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キーマン見極め事業立て直す、大成建設会長の経営哲学

大成建設の山内隆司会長は、「自ら現場に出向き、現場の声を聞き、現物を見る“三現主義”が建設業の経営者に求められる」と言い切る。

山内氏の社長就任は2007年。大成建設は08年度、工事代金の支払が止まった海外受注工事の不振で上場以来の初の営業赤字に転落した。失意の中で「経営環境の厳しさが増すなか、合併の臆測も流れた」。山内氏は海外工事の再建が最優先と考え、自ら立て直しに動いた。その時に心がけたのがキーマンとの交渉。課題には決定権、決裁権をもつ相手と交渉し乗り切ってきた。「若いうちからキーマンは誰だと常に問いかけていた」という。その結果、同社は13年度、ゼネコンとして株式時価総額で首位に躍り出た。

ゼネコンで財閥解体の対象になったのは大成建設だけだが、当時の社員が創業家の全株式を引き取り、海外からの引き揚げた社員も受け入れ再出発した。「戦後の混乱期を乗り越えた立派な出来事だ」と自ら奮起する原動力になっていた。

社員とのコミュニケーションを重視する。山内氏が始めたのが社員に向けた毎月1日の社長メッセージ。何が一番問題で、その解決策を会社として社員に伝えるのが狙い。内容は事業方針のほか、法令順守など多岐にわたる。「会社は仕事を指示するだけでなく、目的と問題点を社員と共有する必要がある。経営者にはその説明責任がある」と考える。社員が幹部に意見をメールで直接訴える“大成版目安箱”も山内氏が社長時代に始めた。

また同社は原価の正確な把握と安く物品購入するため、電子調達を業界で初めて導入した。「ゼネコンは受注した仕事をやり切ることも大切だが、他社より安い原価で高品質なものを提供することが重要だ」とする。

17年、大成建設の会長で日建連会長だった山内氏は、ゼネコンで初めて経団連副会長に就任した。きっかけが21年開催の東京五輪・パラリンピックの国立競技場メインスタジアム建設。同社が設計・施工を担当した。歴史的建築物の受注に奔走した山内氏は、「社員のモチベーションは大いに高まった。多くの協力会社が参画を希望した」という。つらい思いをした海外でも同社の評価が高まった。

好きな言葉は「失意泰然、得意淡然」「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」。常に冷静であり、自らの立場を考え、なすべき事をなすこと。(編集委員・山下哲二)

【略歴】やまうち・たかし 69年(昭44)東大工卒、同年大成建設入社。99年執行役員、02年常務執行役員、04年専務執行役員、05年取締役、07年社長、15年会長。岡山県出身、76歳。

日刊工業新聞2022年7月12日

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