ニュースイッチ

超大容量無線通信が可能な周波数帯域を確保せよ、NICTがビヨンド5G時代へ開いた道

2020年に第5世代通信(5G)システムのサービスが開始され、研究開発は30年頃の実現を目指すBeyond 5G/6G移動通信システムに移りつつある。そこでは100Gbps級(ギガは10億)の超大容量無線通信を可能にする周波数帯域の確保が課題であった。

無線通信で利用できる周波数は、電気通信分野における国際連合の専門機関「国際電気通信連合無線通信部門(ITU―R)」が割り当てている。275ギガヘルツ以下は既にさまざまな無線業務に割当られており、275ギガヘルツ以上が候補となった。しかし、この周波数帯は電波天文・地球観測衛星・宇宙研究などの「受動業務」で利用されており、これらと共存できるように電波の干渉量を見積もり、利用可能な周波数帯を調査する必要がある。

そこで、NICTは移動端末や固定局の技術運用特性、想定される展開シナリオ、電波伝搬特性、モデル化された大気による吸収特性、被干渉システム諸元などからさまざまな状況下での干渉量を計算し、ITU―Rに報告した。特に高性能センサーで全地表面を観測する地球観測衛星業務への干渉量が厳しい。図にEUMETSAT衛星搭載のICIセンサーの天底方向に移動端末が存在する最悪ケースの干渉量計算結果を示す。一部の周波数で最大許容干渉量を超え、この周波数帯の使用は避けることが望ましい。

NICTの干渉量計算結果は他の4機関の計算結果などとともにITU―RリポートSM.2450にまとめられ、19年の世界無線通信会議(WRC―19)において、四つの周波数帯域が無線通信規則(RR)に追加された。275ギガヘルツ以上で初めて「陸上移動および固定業務」に特定されたのである。特に有望なのが275ギガ―296ギガヘルツ帯で、割り当て済みの252ギガ―275ギガヘルツ帯と合わせて44ギガヘルツもの広大な周波数帯を移動通信システムで利用する道がひらけた。

44ギガヘルツもの帯域幅は、5Gの100倍もある圧倒的な連続広帯域であり、10年後にはこの周波数帯を用いた革新的なサービスが実現されていることが期待される。私たちは、その実現に向け研究開発を続けていく。

ネットワーク研究所・フォトニックICT研究センター・主任研究員 稲垣恵三

87年京都大学大学院工学研究科修士課程電子工学専攻修了、11年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程物理電子システム創造専攻修了。09年より現職。Beyond 5Gに関する研究に従事。

日刊工業新聞2022年5月31日

編集部のおすすめ